2019年3月3日日曜日

総合文芸誌「風舎」13号

 詩人のわたなべえいこさん(平)から、いわきの総合文藝誌「風舎」第13号が届いた=写真。発行母体は文藝風舎で、わたなべさんら同人9人の詩や小説、俳句のほか、第41回吉野せい賞奨励賞受賞作品3編、同青少年特別賞の2作品が掲載されている。
 5人いる選考委員の一人として、11月の表彰式で選評と総評を述べ、それに先立つ昼食会で受賞者と懇談した。表彰式のときもそうだったが。今度も青少年特別賞にしぼって書く。

青少年特別賞は中学生以下の生徒・児童が対象だ。今年度は草野中3年新妻野々香さんの戯曲「過去と未来の交差点」と、平一中3年吉田快斗君の小説「セザンヌ」が受賞した。

新妻さんの受賞者コメントにこうあった。「私は昔からドラマや演劇が好きで、今年の文化祭劇の台本を任されたこともあり、本コンクールに応募しようと思いました」。受賞者あいさつでも「将来は演劇関係の仕事に就きたい」と語った。

 吉田君は「この作品は僕にとって日々の思いのはけ口でした。その日ふと心に浮かんだことをメモし、それをもとに紡ぎました」と、受賞者コメントに記している。「銀の匙」の中勘助を「心の師匠」といっていた。

「風舎」に収められた作品をあらためて読むと、選考委員の衣を着て読んでいたときとはまた違った感慨が浮かぶ。吉田君の「日々の思い」が反映されたこんな文章――。

「僕」と「僕」が生まれる前に死んだ「父さん」が対話している。「父さん」が息子に言う。「悪人の心の中にも善人並みの良心があり、善人の心の中にも悪人と同じくらいの闇がある。善人と悪人。負と正。光と闇。この世の全ては紙の表と裏だ」「表がなけりゃ裏は無いし、裏がなけりゃ表もない。全てはこのバランスのうちになりたっている。それに気づけているのならお前はもう大丈夫だな」

 池波正太郎の『鬼平犯科帳』に出てくる、長谷川平蔵の名ぜりふが思い浮かぶ。「人間(ひと)とは、妙な生きものよ。悪いことをしながら善いことをし、善いことをしながら悪事をはたらく」。吉田君の読書の範疇には『鬼平犯科帳も』入っていたのか。いや、入っていないとしても、池波正太郎と同じような人間観を獲得していることになる。

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