2019年10月5日土曜日

『原発ホワイトアウト』再読

「現役キャリア官僚のリアル告発ノベル」と銘打った若杉冽著『原発ホワイトアウト』(講談社)=写真=を、およそ5年ぶりに再読する。
関西電力が汚れたカネですごいことになっている。どこかで同じ風景を見たような……。『原発ホワイトアウト』を思い出した。

同書は東日本大震災に伴う1Fの事故のあとに刊行された。合法的に鼻薬を生み出す「構造」と、原発再稼働を画策する「裏支配者」の動きを描く。最後に、送電鉄塔爆破テロによる二度目の原発災害、という悲喜劇が待っている。

小説だから架空の日本の、架空の電力会社と電力連盟の物語だ。カネにまつわる部分を引用する。

(総括原価方式に基づく電気料金から生まれる「兵糧」がある。この兵糧は政治やマスコミを抑え込むために使われる)

「政党交付金が表の法律上のシステムとすれば、総括原価方式の下で生み出される電力料金のレント、すなわち超過利潤は、裏の集金・献金システムとして、日本の政治に組み込まれ」ている。

「日本電力連盟広報部の世に知られざる仕事内容は、マスコミの言論を監視することである」「地域独占が認められている電力会社は他社との競争に晒(さら)されていないので、本来テレビや新聞で宣伝する必要がない。にもかかわらず、トヨタ自動車並みに投入される広告宣伝費は、報道機関にとっては魅力であり、毒の果実だった」

(毒の果実は「識者」にも及ぶ。電力側が「原発文化人」としてマスコミに重用をはたらきかけるだけではない)

「講演会、社内報の座談会、電力会社の研究会の委員などを積極的に依頼し、その謝金は、1時間当たり最低でも20万円、少し名の通った人であれば50万、あるいは100万というのも当たり前であった」

(これは現実にあった話。元東電副社長と親密になった女性が、講演料だかなんだかで高額な謝礼をもらった醜聞が頭をよぎる)

「……知事にとっても、電源立地地域対策交付金のカネを落としてほしい連中が地元にはワンサカいるんですから、原発はカネと票の製造機のようなもんです」

(ここからが肝心なところ。電力会社は、なにかあれば庶民に負担を転嫁する。経営者のふところは痛まない。心も痛むまい)

「電力会社は地域独占が認められている代わりに政府の料金規制を受けているが、その料金規制の内容は、総括原価方式といって、事業にかかる経費に一定の報酬率を乗じた額を消費者から自動的に回収できる仕組みとなっている」

「電力会社から発注される資材の調達、燃料の購入、工事の発注、検針・集金業務の委託、施設の整備や清掃業務等は、世間の相場と比較して、2割程度割高になっている。(略)購入する金額が常に2割高であるため、取引先にとってみれば、電力会社は非常にありがたい『お得意様』となる」

(世間の相場より2割高い、この超過利潤が電力側に“還流”していろいろなことに使われるのだろう)

 以上は、小説に登場する架空の日本の、架空の電力会社と電力連盟のカネの話と読後感だが、現実の日本の、現実の関西電力はこの小説以上に薄汚い匂いがする。

「おぬしも悪(ワル)よのう」。俗っぽいテレビドラマを連想させる企業倫理、個人倫理の、底なしの頽廃、無責任体質。これは立派な汚職ではないか、庶民はよけいに払っている電気料金を取り返すべきではないか――。隠し事があきらかになるにつれて怒りが増幅する。

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