2020年1月17日金曜日

「郷土雑誌の逸品たち」展

 随筆を寄稿したタウン誌(「ee(ぺえべえ)」=昭和51年・創刊号)がある。若い仲間からあずかっている文芸誌(「文祭」=昭和22年・第2号)がある。いわき地域学會初代代表幹事の故里見庫男さんからコピーをもらった文芸誌(「一九三〇年」=昭和5年・第1巻第1輯)がある――。
 いわき総合図書館で令和元年度後期の常設展「郷土雑誌の逸品たち」が始まった(5月31日まで)=写真(配布資料)。「三猿文庫開設100年記念」の冠が付いている。

 三猿文庫はいわきが誇る私設図書館、「郷土の文化遺産」でもある。昭和9(1920)年、大学を卒業して帰郷し、家業に就いた諸橋元三郎(1897~1989年)が私財を投じて開設した。元三郎夫妻と長男(いわき商工会議所会頭)の3人が火災で亡くなったあと、遺族から3万点余に上る文庫の資料がいわき市に寄託された。

草野心平記念文学館で資料の整理、目録作成が行われ、平成13(2001)年秋、同文学館で「三猿文庫――諸橋元三郎と文庫の歩み」展が開かれた。そのあと、資料は市立図書館が所管し、ラトブに総合図書館がオープンすると、いわき資料フロアの一角に「三猿文庫」コーナーが設けられた。

 同文庫の特徴は、いわきの地域新聞や出版物、全国の近代雑誌創刊号などを数多く保存していることだ。いわきの近現代史、あるいは地域メディア、文学を研究するうえで欠かせないライブラリーになっている。

地域新聞は、主要なものは電子化されて、いつでも、どこからでも図書館のホームページにアクセスすれば閲覧できるようになった。残念ながら、出版物はそこまではいっていない。開架資料にも含まれていない。「郷土雑誌の逸品たち」は、三猿文庫のもう一つの柱である郷土の出版物に光を当てるものになった。冒頭の3冊とはそうして“再会”した。

ホンモノはホンモノが持っている情報を多様に、多彩に伝える。大正時代、山村暮鳥が中心になって発行した文芸誌「風景」の創刊号がある。里見さんが手がけた復刻版の表紙絵は墨一色だが、ホンモノは紙質のせいかどうか、ちょっと違った印象を受けた。

大正時代、昭和時代・戦前、昭和20~30年代、同40~50年代と、大きく4つに時代を区分して、それぞれに創刊された雑誌を主に展示している。

 心平記念文学館で行われた「三猿文庫」展の図録に、諸橋元三郎を囲む鼎談(雑誌「6号線」に掲載)が収められている。「朝になると昨日のことはすでに歴史だ――こうした発想によって培いたくわえたのが『三猿文庫』です」

 鼎談に参加した一人、故中柴光泰さんは「元三郎さんは(略)長年にわたっていわきの文化の最大のパトロンとしてやってこられた。こうしたことは実にまれなことで、篤志・見識そして資力――そのなかのどれが欠けても駄目なんですね」と評している。そのおかげで、私もまた日常的に三猿文庫の恩恵にあずかっている。

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