2020年6月20日土曜日

木村孝夫詩集『福島の涙』

 東日本大震災とそれに伴う原発事故以来、詩人の木村孝夫さん(いわき市平)は津波被災者と原発避難者の側に立った詩を書き続けている。
震災詩集はすでに、『ふくしまという名の舟にのって』(2013年)、『桜蛍』(2015年)、『夢の壺』(2016年)、ポケット詩集『私は考える人でありたい――140文字の言葉たち』(2018年)、同『六号線――140文字と+&の世界――』(2019年)の5冊。

さらに今年(2020年)6月1日、モノクローム・プロジェクト(兵庫県)のブックレット詩集⑳として、『福島の涙』を出した=写真。今回も恵贈にあずかった。

『ふくしまという名の舟にのって』と『桜蛍』は兄弟詩集、ポケット詩集は二つで一対になる震災詩集だという。

『桜蛍』のあとがきにこうある。「できるだけ避難者の内面的なものを描くという目的を持って書いています。どこまで避難者に寄り添い、その思いに触れ、描き切れたのかは分かりませんが、書きながら、何回も被災場所に行ったり来たりしながら、また奉仕活動を通して多くの避難者の声を聴きました」。木村さんの姿勢はこの9年、全く変わらない。

メディアでは掬(すく)いきれない被災者・避難者個々の声、木村さんはそうした人々の悲しみ・怒りに寄り添う。今度の詩集のあとがきにも「ここに掲載している作品全てが、福島の涙である。/大津波で行方不明者になっている方もまだいる。原発事故で避難している方々もたくさんいる」と記す。

『福島の涙』に収められている「月命日」の一部。<海を枕にしても/寒いだけだろう/眠れないでいるのではないか//心配することばかりだが/諦めようと背を向けることは/存在に対する背信だ//家は新築した/目印は立ててある/帰ってくるのを待つだけだ//ここでゆっくりと眠れれば/そう思って/仏壇も買い替えた>

「眠る」はたぶん、原発事故関連死をあつかっている。その冒頭部分。<眠れないと言っていた彼は/この頃はよく眠れるという//仰向けになったまま眠るのは/疲れると、ときどき愚痴る//我儘な性格は/土に帰ることもなく残っている/好きでない花のときは/墓石を揺らしていやいやをする>

帰還困難区域の一部や居住制限区域に人が住めるようになったことに対する「疑心」では、<仮の古里は/子どもたちが住む場所になり/孫の代になると/そこが古里になって/本当の古里が消えていく>と書く。

一人ひとりの真情は、心底にあるものは9年たっても変わらない。木村さんはそれを詩で代弁する。根底にあるのは、原発は自然とは共存できないという現実。それをストレートに告発するというよりは、アイロニーとユーモアをからめて表現する。そこから静かな共感が生まれる。

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