2020年7月6日月曜日

キリの木を切ってもらう


夏井川渓谷の隠居の庭にキリの木がある。もう老木だ。幹は空洞化してとっくに折れ、脇から伸びた2本の枝がまっすぐ天を目指して子枝を広げている。根っこを持っているわけではない。自重に耐えられなくなるころ、強風が吹くと折れる。そのつど側枝が幹のように伸びる。するとまた折れる。また伸びる――。
 
拙ブログを始めた2008年以降でいうと、最初の折損は2009年9月13日だった。雨上がりの日曜日、時間がたつにつれて西風が強まり、時折、突風が吹いた。その突風に4本あるうち一番太い枝が激しい音を立てて折れた。見上げている分にはそう感じないが、折れるとかなりの面積をふさぐ。あとの始末が大変だった。

次は2016年8月31日。隠居へ着くと、キリの太い枝が折れて庭をふさいでいた。何日か前の台風にやられた。幸い、前もこのときもそばの物置の屋根を直撃するようなことはなかった。

 菜園は、南のシダレザクラ(2本)、東のキリ、西のヒノキに囲まれている。それで年々、日射量が減っている。折れる前にキリの側枝を切って、菜園の光を増やすことにした。

余技というと語弊があるが、木に登って剪定(せんてい)しながら幹を伐採できる後輩がいる。ふたつ返事で引き受けてくれた。雨上がりのきのう(7月5日)朝、一足早く隠居へ着いて待っていると、やって来た。地下足袋をはき、命綱を身につけ、さらに別のロープを高い枝に引っかけて、濡れた幹を少しずつ登ってゆく。

そのしぐさから宮崎県延岡市の郷土玩具“のぼりざる”を思い出した。「のぼりざる」は、風を受けると柱を登っていく。磐城平から延岡へ転封された内藤家の家臣の奥さんたちが手内職として始めた、その前からつくられていた――と諸説あるようだが、後輩の木登り術はこの“のぼりざる”そっくりだ。

登れるところまで登って太い子枝に足をかけ、ロープでチェンソーを引っ張り上げて枝を切っていく=写真上。それが終わるとまた少し下に陣取ってチェンソーを操る。チェンソーの威力はなかなかのものだ。あっという間にキリの木は古い幹だけになった。

それからが一仕事である。人力で運べるように子枝を払う、径20~15センチはある太い枝を、ざっと30センチほどの長さに切断する。結局、2本のキリの枝を切り刻むのに半日を費やした。

洞(うろ)のできた幹の内部をのぞくと、キノコが生えていた=写真右。枯れ幹などに発生するヒトヨタケ科のイタチタケ、ないしセンボンクズタケに似る。キノコが幹本体を分解しつつあるといっても、キリの木はさらにいのちをつなごうと側枝を伸ばす。植物の生命力には圧倒される。

 10時のお茶と昼食は濡れ縁でとった。学生寮で知り合ってから半世紀余。近年、実家に“単身帰省”したので、つきあいが復活した。まだ元気なつもりでもすぐに息が切れる、筋力が衰えたので木登りが年々厳しくなった、夜は9~10時に寝て朝は4時ごろ起きる――おたがい、若いつもりでも“老少年”になった。脳内もうすぼんやりしてきた。で、きのうは大事なものを隠居に置き忘れてきた。これから取りに行く。

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