2020年10月20日火曜日

市民講座再開・下

                    
   若いころは、日曜日になると子どもを連れ出して山野を巡った。野鳥から始まって野草へと観察対象を広げ、そのうち山菜・キノコ採りもするようになった。今は体調と原発事故による放射性物質を考えて、森を巡ることはほとんどなくなった。

代わりに、平地の自分の家の庭と夏井川渓谷の隠居の庭をフィールドにして、ネイチャーライティングのまねごとをしている。それでも、今まで見たことのない南方系の虫が現れる。地球温暖化で東北最南端のいわきまで北上し、さらに北へと分布を広げている虫もいる。

一例がアオスジアゲハ。南方起源のチョウだが、すでにいわきを通り越して浜通り北部の相馬あたりでも見られるようになったと思ったら、今は太平洋側では岩手県南部以南に分布し、日本海側では秋田県境に近い青森県沿岸地域でも確認されている(日本自然保護協会「自然しらべ2011 チョウの分布 今・昔」報告書)。

こうした昆虫の北上をどうとらえるべきなのか――。土曜日(10月17日)、いわき市文化センターでいわき地域学會の第28回阿武隈山地研究発表会兼第356回市民講座が開かれた。昆虫が専門の鳥海陽太郎幹事が「南方系昆虫の急速な北上が地球温暖化を警告~気候変動にともない激変したいわきの昆虫~」と題して話した。

結論からいうと、これらの虫たちは「地球温暖化指標種」で、「夏の猛暑や台風がもたらす災害の警報的存在」でもある。たとえば、アゲハチョウ科のなかでも最大級の南方系のチョウ、ナガサキアゲハは「いわき地域での観察例はまれだった。去年(2019年)秋、実際にいわきへの飛来を確認して間もなく、台風が次々にいわきに襲来した」。

因果関係があるといっているのではない、南方系の虫たちの飛来と深刻な気象災害が温暖化のなかで同時に起きた――いわきの昆虫観察者の目には、だから、南方系の虫たちは自然災害を警告する存在、と映るのだろう。「珍しく希少な南方系のチョウの写真が撮れた」というレベルの話ではもうなくなった。

 レジュメには鳥海幹事が撮影した南方系の虫たちのカラー写真が載っている=写真。アオスジアゲハはもとより、「いわき地域に定着した成虫越冬性の南方系種ウラギンシジミ」や、いわき地域で拡散中の「特定外来生物アカボシゴマダラ」は、わが家の庭にも現れた。「街路樹などで爆発的増殖中の外来種アオマツムシ」は同じく初秋、わが家の庭木の上でやかましく鳴いている。

今年(2020年)8月7日夜、見たこともないチョウがわが家の茶の間に入って来た。天井の梁(はり)に止まったところを撮影し、形と紋様をスケッチしたあと、ネットで検索した。クロコノマチョウ(黒木間蝶)だった。

鳥海幹事はこのチョウについても、いつの間にかいわきでも見られるようになった、秋型が越冬するかどうかを確認したい、と語った。

小さないのちだからこそ、昆虫たちは地球温暖化の影響をもろに受ける。温暖化に伴う北上は猛スピードで進行している。わが家の庭先でさえそれが普通に見られるようになった。今回の講座は、そうした自分の断片的な生物情報、疑問、危険度を増す気象災害との関連を整理、再編集するいい機会になった。

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