いわき市は平市街の東方、夏井川の堤防からの眺めである。2月には湯ノ岳の上にあった夕日が、今はずっと北の閼伽井嶽と水石山の上にある=写真。
夕方、わが家から街へ行くとき、街から帰って来るとき、たまに夏井川の右岸の道路を利用する。そこから見る夕日が美しい。
日没の位置は今が「北限」だろう。6月21日、1年のうちで最も昼が長い夏至を迎えるからだ。
春分あるいは秋分の日、日の出・日の入りは東西の線と重なる。春分のあとの夏至までは、日の出・日の入りの位置は北にずれる。そのあと、秋分から冬至までは逆に南に移る。
知識としてはわかっていても、住んでいる場所に当てはめるとどこがそれなのか、実はよくわかっていない。
個別・具体の断片をつないでいったとき、平の東部から見る太陽の軌跡が体感できる。
私の場合は、ブログに書き残しておいたおかげで、日没の南限と北限の位置が具体的に見えるようになった。
一つひとつはピース、つまり断片でしかない。が、つないでいけば実際的な知識になる。
各地に「種まき桜」があるように、日没の位置で田植えや稲刈りの時期を計る「田植え夕日」や「稲刈り夕日」があるかもしれない(と、これは単なる妄想だが)。
ノンフィクション、とりわけ自然科学系の本を読んでいると、それまでに得た知見 に断片的な知識が加わって、より確かなものになっていく。雑学の妙でもある。
たとえば、中西朗『渡り鳥から見た地球温暖化』(成山堂書店、2005年)。「はしがき」にこんな意味のことが書かれていた。
ハクチョウの繁殖地が温暖化の影響で暖かくなると、ハクチョウの食べ物である水生植物や昆虫が豊かになる。すると、生まれてくる若鳥が増える。
その結果、越冬地への飛来数が増える。越冬地もまた温暖化ですみやすくなっている、という。
これまでのハクチョウの雑学的な知見に新たな知識のピースが加わって、ハクチョウの生態が前よりはよく見えてきた。
前に紹介したギリシャ語の「カイロス」についても、新たな知見を得た。井上章一・磯田道史『歴史のミカタ』(祥伝社、2021年)の冒頭部分。磯田さんが「クロノス時間」を紹介したあと、「カイロス時間」についてこう述べる。
「カイロスはギリシャ神話の『機会の神』で、彼の頭髪は前髪だけで後頭部は禿(は)げている」。で、通り過ぎたら後ろ髪、つまりチャンス(機会)はつかめない。
「カイロス時間は何かのきっかけで発現する機会です。そのきっかけは戦争・災害・疫病の他に、技術発展が行き着くところまで行った時も含まれます」
まったく考えもしなかった、歴史家的「カイロス時間」の見立てである。これを断片のままにしておくと、今の私では理解しきれない。これまでの知識とつなぎながら、じっくり考えてみることにする。
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