2025年8月13日水曜日

「白骨」の森

 万緑の夏。確かに山は緑一色だ。が、谷間の木の1本1本がわかるところまで近づくと、ため息が漏れる。

 いわき市平の平地から「地獄坂」を超えて夏井川渓谷に入り、磐越東線の江田駅付近まで進むと、対岸(右岸)の森に「白骨」が目立つようになる。

 白骨は立ち枯れて白くなった木の幹である。この立ち枯れ木が年々増えている印象が強い。

 どんな木が枯れたのかはよくわからない。が、この30年見続けてきた結果として、二つだけはっきりしていることがある。

 一つは松枯れ。阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きた1995(平成7)年初夏から、渓谷の隠居に通い続けている。そのころは、対岸のアカマツはまだ元気だった。

ところが、そのあと次第に変化が現れる。常緑の松葉に黄色いメッシュが入り、「茶髪」に変わったと思ったら、樹皮の亀甲模様もやがてはげ落ち、白い幹と枝だけの「卒塔婆」になった。

「針葉樹は酸性雨に弱い。夏井川渓谷の松枯れはそれだろう」「松くい虫が原因」。専門家の意見は分かれたが、結果として渓谷では大きな松がほぼ消えた。

それで松枯れはいったん収まったが、東日本大震災の前後からまた変化が現れた。松枯れ被害を免れた若い松に茶髪が目立つようになったのだ。

隠居の対岸、一番手前の尾根のてっぺんにある一本松が最近、茶髪に変わった=写真上1。これからまた渓谷では松枯れが始まるのだろうか。

それと、もう一つ。渓谷では「ナラ枯れ」が広がりつつある。最初に気づいたのは2020(令和2)年8月の月遅れ盆のころだった。

平野部から高崎地内に進み、これから渓谷に入るというあたりで、広葉樹の葉が数本枯れていた。夏なのに、なぜ? 日本海側で発生した「ナラ枯れ」が太平洋側でも目立つようになったのだった。

ナラ枯れは、体長5ミリほどのカシノナガキクイムシ(通称・カシナガ)が「犯人」だ。雌がナラ菌やえさとなる酵母菌などをたくわえる「菌嚢(きんのう)」を持っている。雄に誘われて大径木のコナラなどに穿入(せんにゅう)し、そこで産卵する。菌が培養される。結果として木は通水機能を失い、あっという間に枯死する。

カシナガの幼虫は孔道内で成長・越冬し、翌年6~8月、新成虫として一帯に散らばるので、被害もまた拡大する。

渓谷の県道沿いでも、崖側、谷側と両方で大木がナラ枯れを起こし、倒木・落枝の危険が増した。

 事故の未然防止のために伐採された崖の大木もある。さらには先日、逆さになって崖の金網に引っかかっているものがあった=写真上2。途中から車が通れるように切断されている。その直径だけでも30センチ近くはあるようだ。

    しかし、車が通れるからいい、ではすまされない。いつ落下するか。ちょうど車が通ったときに、ドサッときたら……。毎回ひやひやしながら通る。 

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