2014年2月19日水曜日

求愛ダンス

 ソチ五輪の男子フィギュアスケート=写真(2月14日、NHK)=が始まるのと同時に、たまたま、いわき総合図書館から『言葉の誕生を科学する』(河出書房新社、2011年4月刊)を借りて読み始めた。作家の小川洋子さんが科学者の岡ノ谷一夫さんに話を聞くというかたちの対談本だ。フィギュアスケートの高橋大輔に言及するところがある。

 本の内容は、カバーの折り返しにある惹句に集約されている。「鳥はなぜうたうのか? 鳥がうたうのは、求愛のため、繁殖のためである。しかし、そのことで鳥の歌は次第に複雑になっていった。人間は、なぜ言葉を話しはじめたのか?」

 岡ノ谷さんは、人間の言葉も小鳥のようなものから進化してきたのではないかと考える。「言語の歌起源説」だ。鳥がうたうように、人間の先祖もうたっていた。そして「ある時『歌』から『言葉』へと、大いなるジャンプをなしとげた」。

 NHKの「ダーウィンが来た!」や、BSプレミアムの「ワイルドライフ」をよく見る。とりわけ印象に残っているのは、“あずまや“をつくるオーストラリアのオオニワシドリと、パプアニューギニアの森で“友達の輪”をつくる極彩色のフウチョウ(極楽鳥)だ。超絶の技巧というほかない。

 震災後、フラダンスを踊る女性と知り合いになった。踊りと衣装を間近に見ているうちに、フラダンスはハワイの鳥たちの歌と求愛ダンスに触発されて生まれたのではないか、と思うようになった。『言葉の誕生を科学する』を読んでさらに意を強くした。

 小川さんがいう。「私はフィギュアスケートをよく見るんですが、高橋大輔の滑りなど、あれはもう典型的な求愛ダンスではないかと思うんです」。岡ノ谷さん、「あ、もちろんそうです」。

 根源的には鳥の求愛ダンスにも通じる――そんな視点を加えて、男子フィギュアスケートを見た。羽生結弦が金メダル、町田樹が5位、高橋が6位。羽生の“求愛ダンス”は、円熟というよりはダイナミックで若々しいものだった。
 
 フィギュアスケートが鳥の求愛ダンスの名残なら、スキーのジャンプは鳥そのもの、ワシ・タカ類のように空を舞いたいという願望が生み出したものではないか。バレエもまた、重力から軽々と離脱して飛び回る鳥の飛翔に触発されたものではないか――。たまたま同時進行的に読んだ本のおかげで、そんなことにも思いが及んだ。遅まきながら、ソチ五輪が少し違って見えてきた。

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