図書館では必ず、寝床で読む大活字本を探す。先日は解剖学者養老孟司さんの『養老訓』を借りた=写真。
「養老訓」? それによく似たタイトルの本があったな。そう、「養生訓」。江戸時代に貝原益軒が長生きするための健康法を書き残した。
「養生訓」は、新聞や雑誌のエッセーに引用されているのを見かけるが、ちゃんと読んだことはない。
今はそれより『養老訓』だ。著者の名前にひっかけた「老いを養う」本、すなわち老人の生き方を説いたエッセー集だろう。
パラパラやっているうちに、「訓の五 一本足で立たない」が目に止まった。一本足とは、男性が「仕事一本」(仕事一筋)で生きることのたとえである。
「いつも思っていたことは、二本足、三本足で軸をいくつもおいて生きていればいいということでした」
何か一つだけやってよしとするな。あれもやり、これもやる。仕事一本じゃない生き方をしよう、と著者は言う。
その一例として、「訓の五」の冒頭にこう書く。「一日10分間でいいから自然のものを見るといいですね」。なぜかというと、「それが頭を硬直化させないためには一番いい方法だから」だ。
「本当に脳に刺激を与えたいのならば、外に出るのが一番なのです。だから『考えるな』『体を使え』と私は言うのです」
養老さんは昆虫の研究者としても知られる。山野に出かけないと虫には出合えない。
その経験から生まれた言葉だが、解剖学者としての専門分野での経験・知見も反映されている。
「養老」にとどまらない。いや、それに通じる意味で自然に触れることの効用を説いているのだ。
わが意を得たような思いだった。私は、平日は自宅でデスクワークをしている。日曜日は夏井川渓谷の隠居でフィールドワークをする。1週間に一度は自然に身を置く。それで心身のバランスが保たれる――そう思っている。
それだけではない。マチへ行った帰りには必ず夏井川の堤防を通り、ゆっくり移動しながら水辺の自然をウオッチングする。わが家では毎日、庭に出て草木をながめる。
「考えずにただ運動だけをしていても仕方がない。(略)すべてはバランスです。/虫採りをするときには体と頭の両方を使っています」
自然に触れることの効用は「バランス」と「多様性」への気づき――これに尽きるだろう。
その伝でいうと、日曜日に接する夏井川渓谷の自然は、私には最良の「書物」である。「考えるな」「体を使え」。しかし、体を使うことで考えが深まる。
ついでながら『養老訓』に刺激されて、初めて「養生訓」を読んでみる気になった。まずは注釈書から。
医学博士でもある蓮村誠さんの『新釈養生訓――日本人が伝えてきた予防健康法』を図書館から借りてきた。それについてはいずれ紹介したい。