夏井川渓谷にある隠居の小さな菜園で、こぼれ種で発芽した辛み大根を育てている。といっても、ほとんど手をかけない。
冬場に肥大した根を引き抜いておろしにする。辛い。この辛さがいい。
越冬して春を迎えると、つぼみがいっぱいできて、やがて花を咲かせる。これも「菜の花」として食べられる。
開花したあとにできる若いさやも食用になると知ったのは去年(2025年)の5月。
いわき昔野菜保存会の総会が終わって交流会に入り、「さや大根」の食べ方を教わった。キヌサヤエンドウは花が咲いたあとの若いさやを食べる。それと同じである。
ちょうど辛み大根の花がピークを過ぎ、未熟果ができつつあるときだった。日曜日に隠居へ出かけて、初めて収穫して食べた。あっさりした味だった。
山菜と違って、いつもそこにある。しかも、根・蕾・さやと年に3回は食卓を彩ってくれる。今ではわが家に欠かせない貴重な季節の食材だ。
若いころはいろんな野菜を栽培した。白菜・大根・ニンジン・二十日大根・カブ・サニーレタス……。
家庭菜園は少量多品種の栽培ができるのが魅力だろう。隠居に遊びに来たオーストラリア人夫妻から、向こうでは家庭菜園を「ベジパッチ」と呼ぶ、と教えられた。少量多品種栽培はまさに野菜のパッチワークだ。
そのころはまだ現役で、2畳半を二十日大根とカブに充て、次の2畳半はサニーレタスに、また次の2畳半はニンジンに……と、小さなスペースをつくってはゆっくり野菜と向き合った。
青物はおおむね未熟果を食べる。花を咲かせてはならない。そんな思い込みがあった。
ただし、白菜の花を食べる話は知っていた。私らも春になると、白菜の菜の花をもらって食べる。そのためだけに種まきをずらす友人もいる。
しかし、大根はやはり思い込みに支配されていたようだ。花を咲かせるまで畑に置いておくものではない。蕾とさやを食べることは考えもしなかった。
白菜も大根も同じアブラナ科の野菜である。花が咲けば実がなる。その実がさやの中で形成される。考えれば当然のことだ。
震災と原発事故が起きて、谷間の家庭菜園にも影響が出た。庭が全面除染の対象になって土を入れ替えた。
栽培する野菜も「三春ネギ」と二十日大根程度になった。そのなかで知人から辛み大根の種が届いた。
辛み大根はこぼれ種から勝手に生えてくる。今はこのこぼれ種の生命力にまかせて、不耕起で育てている。
手をかけずにすむ分、ありがたい食材だ。しかも、蕾も、さやもとなれば、こちらは辛み大根だらけにならないようスペースの管理をするだけでいい。
そうして花盛りの春が過ぎ、さや大根の初夏を迎えた。毎週日曜日、さや大根=写真=を摘んではお福分けをする。それがまだしばらく続きそうだ。
キヌサヤと食べ方は同じ――。こういわないと、理解してもらえないときもある。さや大根は食材としてもっと認知されていい。