2024年4月17日水曜日

春の土の味

         
 夏井川渓谷の隠居の庭にフキが群生する一角がある。今年(2024年)はなぜか、フキノトウの出現が遅れた。とはいえ、1月下旬の極寒期が過ぎると、目に見えて頭をもたげ始めた。

 私はとりあえず一つ、二つ、といった程度にフキノトウを摘んで持ち帰り、水洗いをしてカミサンに渡す。

 ナメコその他が入った味噌汁に、フキノトウのみじんが浮いているのを口に含む。ほのかな苦みと香り――。これこそが春の土の味なのだと、年をとった今は納得する。

 子どものころはこのフキノトウの苦みが嫌いだった。祖母、両親、子どもたちの3世代が同じ食卓を囲む。大人にとっては春の土の味も、子どもにとってはただ苦いだけの食べ物にすぎなかった。

 それが大人になって就職したあと、酒の席に出てきた。苦いのは苦いが、なぜか酒に合うことを知った。そのことは前にも書いた。

 男の私と違って、カミサンは丹念にフキノトウを摘む。日曜日のたびに、笊(ざる)にいっぱい収穫した。

 多くは「ふき味噌」になって出てきた。これも子どものころに味を覚えた。砂糖の加減で甘みが強かったり、弱かったりするのはしかたがない。

 最近は薹(とう)が立ったフキを刻んで酢味噌和(あ)えにしたものを食べた=写真上1。これは面白い味の組み合わせだった。

 フキの苦みがきたあと、酢の味と味噌の味がくる。時間差がある。フキノトウとしては終わっているが、花茎はまだやわらかい。知り合いから教わった作り方だという。

 今は隠居の庭がヨモギの新芽で覆われつつある。これもカミサンは2時間、3時間と飽きずに摘む。

 まずはアクを抜き、刻んで、油で炒め、醤油で味を付けたものが出てきた。さっぱりした味だった。

 種本があるという。移動図書館から若杉友子『若杉ばあちゃんのよもぎの力』(パルコ、2022年第5刷)=写真上2=を借りた。その中に「よもぎのしょうゆ炒め」が出てくる。

まず、①アク抜きしてしぼったよもぎを1センチ幅くらいに切る②フライパンを熱してごま油を回し入れ、よもぎを入れて菜箸を回してサッと炒める。

そして、③よもぎに酒を振って混ぜ、アルコール分が飛んだら醤油を鍋肌から回し入れ、再度混ぜて仕上げる。

別の日には、よもぎのパンケーキを試食した。小麦粉や砂糖その他が入ったパンケーキミックスを利用したという。

種本には出てこない。ミックスされたものに卵や牛乳を混ぜ、サラダ油で炒めると、それらしいものが出来上がる。

ゆでて、冷水でアク抜きをする、というのが基本らしい。そこまでやっておけば、刻んだり、すりおろしたりするだけでいい。昔ながらの食べ方もいいが、洋風の春の土の味も、それなりに新鮮で面白かった。

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