2014年4月23日水曜日

シダレザクラ

 夏井川渓谷のアカヤシオ(イワツツジ)が満開になる前後から、わが隠居(無量庵)の庭でも、野草や園芸種が花を咲かせる。オオイヌノフグリ。これは外来種だ。スイセン。菜園と天然芝の庭の境にカミサンが植えた。ほかに、次から次へと名も知らない草たちが芽生え、花を咲かせる。それはしかし、去年の春までのこと。

 Ⅴ字谷でも、そこだけ傾斜が緩やかな小集落の一角。庭の除染が行われて、地表から5センチ前後にひしめいている植物たちが、種を含めて根こそぎ消えた。それでも残っていた種や地下茎がある。分校の校庭のようになった庭に、ぽつりぽつりと緑が芽生えてきた。
 
 庭木は除染の対象外だった。菜園のそばに植えた高田梅とシダレザクラが“公園木”のように立つ。まず梅の花が咲いて散り、次いでシダレザクラが花をつけた=写真。日曜日(4月20日)がちょうど見ごろだった。
 
 対岸の斜面にはアカヤシオ(イワツツジ)、道路わきの庭にはシダレザクラ。淡いピンク色が人の目を引きつける。庭で土いじりをしていると、道を行き来する行楽客から次々に声がかかった。「これは桜ですか」「そうです」「向こうにあるのは」「アカヤシオ、イワツツジです」。意外とアカヤシオは知られていない。
 
 庭に入り込む行楽客も後を絶たなかった。あいさつされれば「どうぞ、どうぞ」となるのだが、だいたいは黙ったままだ。自由に出入りできる広場とでも思っているのだろう。
 
 言葉を交わせば意外な展開になる。押し花を教えているという女性は、カミサンとしばらく満開のシダレザクラの下で話をしていた。同じ街の米屋が実家と知って、話がはずんだ。連れの男性は米屋仲間の集まりで、昔、この隠居(無量庵)に来たことがあるという。義父が健在だったころにちがいない。
 
「あのう、ここは何をやっているところですか」。ためらいがちに声をかけてきたアマチュアカメラマンもいる。「そば屋です」といいたいところだが、「ただの民家です、どうぞうどうぞ」。そこからしばらく花の話が続いた。

 知らない人とのおしゃべりが面白いのに、黙ったまま、あいさつもなしでは、「ここは民家です」とお引き取り願うほかない。それもこれも、花があってこそのこと。一緒に眺めれば、花はいっそう美しい。

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