予兆は前の晩にあった。カミサンが電話を受けると、「息子」が「同窓会のハガキが届いていないか」という。
息子にしてはガラガラ声である。「風邪で38度の熱を出した」という。その日はそれで終わった。
翌朝また「息子」から電話がかかってきた。同窓会のハガキの話になったので、「まだ届いてない」。すると、「ついでに」と切り出して別の話を始めたという。
「内緒で株をやっていた。野村証券から200万円の配当がある。野村証券の担当者から電話が入るので指示に従ってほしい」
「息子」の症状を心配し、話をすっかり信じたカミサンが、直後にかかってきた「野村証券の担当者」とやりとりをするのを聞いて、「むむむ」となった。
怪しい。こちらの住所、名前を聞いている。すると、次は口座番号か! パソコンですぐ検索すると、似たような手口の特殊詐欺例がヒットした。埼玉県警のホームページにあった=写真。
「特殊詐欺予兆電話情報(7月21日分)オレオレ詐欺に注意!」というタイトルで、「息子や証券会社を名乗るものからの電話」を紹介していた。2日がかりの犯行である。
最初の電話はカミサンが受けた第一報とまったく同じだ。「もしもし俺だけど、実家に同窓会のハガキが来てないか」
翌日、また「息子」から電話が入って、ハガキの話をする。そのあと詐欺の本題に入る。
「お金を預かってほしいんだ。野村証券から300万円が振り込まれるから、口座番号を教えてほしい。野村証券の担当者から家に電話があるから、その人の指示に従ってね」
で、直後に「証券会社の担当者」から電話が入って、うんぬん――という流れだ。
だましのシナリオは何パターンかあるらしく、金額が300万円ではなく、200万円だった。「俺」の状態も風邪だ、なんだと変わるのだろう。
子どものこととなると理性より母性が前に出てしまうのか、ふだんは何かにつけてクールなカミサンも、すっかり信じてしまったようだ。
私がネットで検索し、すぐ息子に電話すると、ガラガラ声ではない、風邪もひいていない。電話中のカミサンにすぐメモを渡して詐欺であることを伝える。
それでようやく「警察には連絡したから」とカミサンが相手に言って電話を切った。危なかった。
ホンモノの息子の忠告に従って、カミサンがいわき中央署に電話を入れて顛末を伝えた。
すると、管内ですでに数十件の電話例があるという。いい対応だった、みんなに声をかけてほしい――そう言われたとか。
埼玉県警が広報したのは7月21日の出来事だった。このところ一斉に電話をかけまくっているらしい。それを信じて口座番号を教え、被害に遭った例もあるにちがいない。
わが家は未遂に終わったが、住所とカミサンの名前はアンダー世界に広がった。今後は、そう覚悟して対処するしかない。
8月4日は特殊詐欺電話にひっかかりそうになった日。このことをしっかり胸に刻むことにした。