図書館で、寝床で読む大活字本を探していたら、田部井淳子さんのエッセー集『山の頂の向こうに』が目に止まった=写真。
田部井さんは女性として初めてエベレスト登頂に成功した。田村郡三春町がふるさとだ。私は同じ田村郡の常葉町(現田村市常葉町)で生まれ育った。「田村郡」のくくりでいえば、同郷の大先輩である。
大活字本は、小説だとページを繰る回数が多くなる。エッセーはその点短いので、1つひとつ読み切るのにそう時間はかからない。いいところで睡魔がやってくる。で、この本を借りた。
なぜ田部井さんの本か。田部井さんをモデルに、吉永小百合さんが主演した映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」が公開された。それで、ネットを含むメディアの情報が脳内にインプットされていたようだ。
田部井さんが女性だけでエベレストに遠征し、登頂に成功したのは1975年。今年(2025年)はそれからちょうど50年に当たる。
とりあえず寝床で読み始めると、これがおもしろい。本を持つ手の力がスーッと抜けるときもあれば、読み続けて1時間が過ぎ、2時間がたつこともある。
映画の原案は田部井さんの別の本、『人生、山あり“時々”谷あり』である。ネット情報だけでいうのもなんだが、『山の頂の向こうに』の続編とでも呼べるエッセー集のようだ。
『山の頂の向こうに』でも触れているが、「“時々”谷あり」は、たとえば子どもの成長に伴う行動の振幅の大きさなどを指しているのだろう。
『山の頂の向こうに』で最も強烈な印象として残った出来事を紹介する。田部井さんは1981年、チベットのシシャパンマ(8012メートル)を登頂したあと、左足の指が凍傷にかかる。その顛末がすさまじい。
キャンプに戻って足をお湯につける。「凍った指がだんだん解凍していく時の痛さは、とても言葉には表現出来ない」。これだけでも驚きだが、さらに事態は深刻化する。
北京の病院は切断するかどうかという判断だった。「切るのは嫌だ」とそのまま帰国して、日赤病院で1本1万5千円の注射を2回打ってもらう。もしかしたら、これが効いたか。
自宅で走り回る長男をつかまえ、おむつを取り換えようとして、田部井さんは転ぶ。そのとき、凍傷の足を包んでいた包帯がポロリととれる。
「キャーッ黒い指がない。なんと黒い部分だけ包帯にくっついているではないか。なかから生まれたばかりの赤ちゃんの指のような、赤い細い指が現われている。爪はない」。ドクターに電話すると、「よかったですね。切らずにすましたね」。
指が再生した? それから足の指を鍛えるためにジョギングを始める。それを知った知人の世話で翌年、青梅マラソンに出場し、30キロを完走する。青梅マラソン出場の裏にはこんな奇跡と努力があったのだ。
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