2013年5月23日木曜日

杉の皮はぎ


「吉田さん、これ」。森の中の小さな社(やしろ)の前に杉の木がある。幹の南側の樹皮がそそけだっていた=真。「ムササビかリスがはがしたんだ」という。夏井川渓谷の小集落・牛小川で行われた春祭りのときのひとコマだ。

戸数は、ときどき私が週末をすごす無量庵を含めて10戸、日々暮らしているのはそのうち8戸だろうか。小集落だから、祭りといってもささやかなものだ。渓谷に春を告げるアカヤシオの花が満開になるころ、各戸から1人が出て集落の守り神である「春日様」を参拝し、定宿で「なおらい」をするだけ。今年は4月14日に行われた。

人間に囲まれたまちと違って、自然に囲まれた山里である。住民はふだんからいきものと接して暮らしている。小さいときから自然に関する知識をたくわえると同時に、自然を利用する知恵と技術も身につけてきた。そそけだった杉の皮から動物の行動を推測することなどは、だから朝めし前なのだろう。

リスは日中、沢を歩いていたときに道を横切るのを見た。ムササビは夜間、車で走っていたとき、山側から谷へと滑空するのを見たことがある。杉の皮をはいでどうするのだろう、巣の材料にするのか。巣はどこにある?――住民の「自然を読む力」に舌を巻きながらも、好奇心に火がつく。これこそが「春日様」のご利益なのかもしれない。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

「そそけだつ」とはこういう時に使うのか?初めて知りました。これから生きている間にあとどのくらいの単語に出会うのだろう?

これから加齢に加えて使う言葉が少なくなってくる。使い慣れた言葉だけでしかコミュニケーションしないだろう?

それも短縮した言葉での交流。メールの絵文字にしたらどうなるんだろう? 先行きが不安だ。