食料は車で5分ほどのスーパーでまとめ買いをする。合間に、近所のコンビニや街の大型店で酒のつまみを買う。スルメ、ピーナッツ、マグロの切り落としのたぐいだ。
おととい(3月5日)は量り売りの「フキの油いため」を買った。街中にあるビルの食品コーナーをぶらぶらしていたら、ショーケースに陳列されているのが目に留まった。しばらく食べていない。その晩、さっそく口にした=写真。ん?ずいぶん甘いぞ。フキの風味はどこかへ消えている。ただただ砂糖の甘さが口に残った。これが街の人間の味覚なのか、と思った。
フキの油いためは好物のひとつだ。阿武隈の山里では、初夏に採ったものを塩漬けにする。盆や正月などのハレの日に、塩抜きをしていためたフキがでんと大皿に盛られて出てくる。野趣を損なわない程度にやわらかく、あっさり甘く味付けされたものがいい。
フキノトウのてんぷら、フキのみそ汁、フキみそ……。フキの油いために刺激されて、フキにまつわる記憶が立ちのぼる。フキノトウは、母方の祖母が住んでいた山家近くの沢で摘んだのが最初の記憶だ。小学校に上がる前、6歳のころだったろう。小4のころには、半ば強制的に母に連れられてフキ採りを経験した。
子どものころは苦くて食べられたものではなかった。が、その苦みが大人になったときに郷愁と結びついて、食を彩り豊かなものにしてくれる。フキノトウを苦くてうまいと感じたのは20代半ばだった。酒のつまみに加わった。
4月下旬には山菜採りが始まる――と思いながらも、この3年間はほんの1、2回しか山菜を採ったことがない。秋のキノコもそうだ。山里の直売所で売っていた塩漬けのフキも、この3年というもの、買ったことがない。売り手のおばさんの家でも在庫がなくなったのではないだろうか。
「半商品」の塩蔵フキではなく、「食品」のフキの油いためを買うしかなくなった状況が、実に情けない。
1 件のコメント:
アレ以来敷地内のフキノトウは眺めるだけになりました 私もいわき市在住ですが毎年こんな悔しい思いをするならと移住先を探す毎日です
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