新しい朝ドラ「風、薫る」は、明治の世になって「看護婦」として生きる2人の女性が主人公だ。
早くも「トレインド・ナース」という言葉が出てきて、視聴者は「何、それ?」となったのではないか。私がそうだった。
主役のひとり、一ノ瀬(奥田)りんは嫁ぎ先を飛び出し、幼い娘を連れて上京する。そこで大山捨松に再会し、「トレインド・ナースにならないか」と勧められる。
りんが母親にその話をする。母親は元家老の妻だ。それなりに教養がある。「トレインくらいは私だって知っている、汽車でしょ」には思わず笑った。
小泉八雲夫妻を描いた前の朝ドラ「ばけばけ」でも似たようなシーンがあった。英語という新しい文化の波が地方にも及び、英語を知らない人間は発音が近い日本語を思い浮かべて首をひねる。このトンチンカンはドラマの潤滑油でもある。
「風、薫る」が第4週に入ったころ、図書館の新着図書コーナーに、山下麻衣『「看護婦」の近代社会史――誇りが啓いた自立への道』(朝日新聞出版、2026年)があった=写真。
第1章に「トレインド・ナース」の話が出てくる。りんの母親と同様、「トレインド」を「トレイン」、「ナース」を「茄子」か「那須」と勘違いしてしまうようなレベルだから、ここはちゃんと読んでみるか――という思いがわいた。
まずは「トレインド・ナース」の意味から。専門教育を受け、病院での体系的な実習を経て資格を与えられた看護婦をいうそうだ。
現在は一般に「看護師」を使うが、著者は歴史的用語としての「看護婦」を用い、本のタイトルにも使った。私も著者の考えに従う。
英語の綴りでは「Trained Nurse」。この綴りを知って、「トレインド」と「トレーニング」の親和性に気づく。
日本でトレインド・ナースの先駆けとなったのは、朝ドラのモデルでもある大関和(ちか)と鈴木雅(まさ)たちだ。
それぞれの経歴を読んでわかったのだが、ドラマの主役2人は、大関和、鈴木雅とはっきり分けられるものではなく、彼女たちの個性を再構成して、新しい人物像を描いている。ドラマづくりとしては当然だろう。
史実としては、桜井ちかという人が明治9(1876)年、桜井女学校を創設する。その学校に同19年11月、付属の看護婦養成所が誕生する。
修業年限は2年で、2年次には帝国大学付属第一病院で臨床実習が行われた。同21年10月、大関和、鈴木雅ら6人が病院から修業証書を授与された。
ドラマは第5週に入って、主人公たちが看護学校に入学するシーンが放送された。「梅岡女学校付属看護婦養成所」と看板にあった。
史実では「桜井」、ドラマでは「梅岡」。そのことは本を読んでいたのでわかった。
ついでながら、ネット検索でトレインドとトレーニングは同じ原義からきており、トレインもまたその派生語であることを知った。
最初はりんの母親の勘違いを笑ったが、今はあながち間違いともいえないと思っている。