カミサンが弟の遺品を整理していたら出てきたという。いわきの伝統芸能「じゃんがら念仏踊り」を表現した「じゃんがら人形」である=写真。
厚さ5ミリほどの板に7センチ強の人形が5体。向かって右端の1体はちょうちん持ち、手前の2体はやや腰をかがめた太鼓打ち(たいこぶち)、その後ろに立つ2体は鉦切(かねきり)だ。
板を持つと重量感がある。素焼きの土人形を肌色に染め、それに頭髪、鉢巻、浴衣、たすき、太鼓、鉦、ちょうちんなどを着色したようだ。
ちょっと触ったら黒い頭髪の一部がはげ、淡い肌色が見えた。それで制作の流れが想像できた。
ふっくらとした顔の眉、目、ちょうちんの「いわきじゃんがら」の文字。筆さばきはいたって繊細だ(制作者は女性?)。
ふっくら顔の延長でいえば、口は赤い。どう見ても女性像だが、じゃんがら念仏踊りに女性が加わるのは最近のことで、一昔前はどこも男性だけで構成されていた。
が、やはり現代の目で見てしまう。男性なら口は何も赤色にしなくてもよかったのでは、と思うのは偏見か。
丸顔、切れ長の目。顔はとにかく阿弥陀如来に似る。その意味では、男性でも女性でもいい、それを超えた存在ということになる。
人形と同じ箱に入っていた「じゃんがら人形由来」には、じゃんがら念仏踊りの歴史(伝承)と、月遅れ盆の新盆供養について触れたあと、「平独特の郷土色豊かな芸術品でありみやげ品として最適」と人形をPRしている。
「平独特」というのは、14市町村が合併して「いわき市」になるまでは「平市」だったことによるのだろう。
じゃんがらはしかし、平にとどまらない。いわき市全体がすっぽり「じゃんがら文化圏」に入る。
それだけではない。南は茨城県北茨城市、北は双葉郡双葉町まで、西は田村郡小野町、石川郡古殿町・平田村でもじゃんがら念仏踊りが見られるという。
「平独特」には浜通り南部の中心都市という思いが反映されているのかもしれない。そして、この人形の販売元は「いわき市平駅前 いづみ屋商店」である。
今は駅前再開発ビル「ラトブ」が建つが、その駅の真ん前にヤマニ書房と隣り合うようにしていづみ屋があった。
すでに合併して「平市」も「いわき市」に変わったが、駅は「いわき駅」ではなく、まだ「平駅」とあるから、合併して間もないころの制作・売り出しか。
実はこのじゃんがら人形が出てきたとき、戦中に亡くなった図案家鈴木百世(ももよ)の作品ではないか、だとしたら「大発見」だと思ったのだが、「いわき市」の表示にそのひらめきは消えた。
じゃんがら人形としては、平・旧城跡の馬目美喜子さんが始めた「じゃんがら和紙人形」が知られる。
この土人形はいつ、だれが作ったのか。繊細な筆遣いを通して「名工」が想像されるのだが、むろんそれらしい工人の顔は思い浮かばない。
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