2013年11月29日金曜日

美容室の「2:46」

同級生の車に同乗して、福島県・中通りの中央部を東西に貫く“肋骨道路”(天栄村の国道118号だったか、平田村の国道49号だったか)を走っていたときだ。

家が並ぶ集落の1軒の軒下に、美容室の看板時計がかかっていた。田舎の美容室は床屋と同じく、住まいの一角を店舗にしている例が多い。床屋なら赤白青の回転看板、美容室なら店名の入った看板時計――山里に生まれ育った古い人間にはなじみのデザインだ。その1週間ばかり前、双葉郡富岡町で同じ看板時計を見た=写真。傾いて止まった針の位置がありありと思い出された。

11月2日に、首都圏からやって来た“ダークツーリズム”の一行十数人に同行して、いわき市の北、広野・楢葉・富岡各町を巡った。富岡では内陸部のほかに沿岸部へ足を運んだ。海の見えるJR常磐線富岡駅に通じる商店街で、ずれて斜めに傾いた美容室の看板時計に出合った。

美容室は内部がガランとしていた。店の奥に空が見えた。時計の針は「2:46」をさしたままだ。大地震のあとに大津波が来た、すぐ原発避難を余儀なくされた――マスメディアやネットでなじみの、3・11を象徴する看板時計だった。

富岡駅前にパトカーが止まっていた。津波で駅に流されてきたと思われる自動車をチェックしていた。どこから来たのか、代表者の名前は? 一行が着くと質問を始めた。空き巣予防の“見える警備”でもある。

富岡町は今年3月25日、避難指示区域が解除され、日中の出入りができる避難指示解除準備区域と居住制限区域、立ち入りができない帰還困難区域に三分された。富岡駅周辺は一般の出入りが可能で、私たちのほかに何組かのツアー客がいた。同じようにおまわりさんから声をかけられていた。

それはさておき、美容室の看板時計は“震災遺品”のひとつには違いない。生業・暮らし・人々の息遣い・不安と恐怖……。その時計のある空間に立つことで、あの日そこで何が起きたかを想像することができる。秘められたメッセージを読み取ることもできる。ツアーの目的はたぶんそこにある。

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