2013年11月16日土曜日

小春日の産卵

その虫に気づいたのは11月2日昼、首都圏からの被災地ツアーの一行を自宅前で待っていたときだ。すぐ家の周りの生け垣をチェックすると、いた。3センチほどのミノウスバの成虫が盛んに飛び交い、マサキの枝先に卵を産みつけていた=写真

ミノウスバは「蓑薄翅」と書く。胴体が黒とオレンジ色、翅が半透明の小さなガだ。幼虫はマサキやニシキギ、マユミなどの新芽を食べる。ニシキギ科の植物にとっては厄介なガだ。わが家の生け垣では毎年、小春日のころ、ミノウスバの交尾・産卵がみられる。

マサキの枝先に産み付けられた卵はそのまま冬を越し、新芽が膨らみ始める春の終わりごろに孵化する。幼虫は最初、かたまって新芽を食べているが、成長するにつれて木全体に散らばり、さらに激しく新芽を食べる。やがてマサキを離れ、石の裏などに繭をつくって蛹化し、晩秋に羽化して成虫になり、再び産卵が始まる――というのが、このガの生活環だ。

義父が生きていたころは、生け垣の手入れも行き届いていた。人間の背丈ほどに刈り込まれていた。今は2階のテラスに触れるまで伸びている。家の主が剪定を怠ければ怠けるほど、ミノウスバには都合がいい。

予防策は簡単だ。産卵が終わったころを見計らって、その部分だけを剪定する。しかし、毎年、いつかやろう、いつかやろうと思いながら、忘れてしまう。

で、春の大型連休のころ、生け垣の新芽が食い荒らされて初めてミノウスバの孵化に気づく。幼虫がかたまりになっているうちは枝先を切るだけですむが、木全体に散らばったら手に負えない。何年かに一度は大発生し、丸裸にされる。

人がいてもこうなのだから、人の気配が消え、手入れが行われなくなった家のマサキの生け垣、庭のニシキギは、ミノウスバの格好の温床、食堂になるだろう。被災地ツアーは、そうした細部に宿る変化にも目がいくと、より深く、重く、豊かなものになるにちがいない。

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