2013年11月3日日曜日

渓谷のホコリタケ

夏井川渓谷の無量庵の庭に、秋口からホコリタケが頭を出すようになった=写真。大きさは径3センチ弱といったところか。図鑑を見ると、白っぽい表面に点々と黒褐色の突起があるが、無量庵のホコリタケはツルッとしている。色も汚れた肌色に近い。内部で胞子が成熟しつつあるのだろう。

芝が庭を覆っている。勝手に勢力を拡大した。その芝の間にポツリ、ポツリと散生している。別名キツネノチャブクロ。似たようなキノコにタヌキノチャブクロがあるが、こちらは主として朽木上に発生するという。両者とも内部が白い幼菌のうちなら食べられる。とはいえ、そう食欲をそそられるキノコではない。原発事故後はなおさらだ。

ただ、子孫存続の方法が面白い。2008年11月30日放映のNHKスペシャル「雨の物語~大台ケ原日本一の大雨を撮る~」で知った。以来、ホコリタケに遭遇するたびに、その衝撃的な映像を思い出す。

雨粒が落下してホコリタケにぶつかる。すると、頂端の穴からパッと“煙”が噴き出す――ハイスピードカメラがとらえた胞子放出の瞬間だ。同じように、人間に踏みつけられたり、蹴飛ばされたりした瞬間に、胞子が舞い上がる。

ホコリタケは極地を除く全世界に分布しているという。2009年9月に同級生と北欧を旅した。ノルウェー第2の都市、ベルゲンの郊外、トロルハウゲンの作曲家グリーグの家を訪ねたとき、庭にホコリタケの仲間が頭を出していた。「1年に400日は雨が降る」という多雨地帯のうえ、緯度が高いためにキノコの腐敗を早めるハエの幼虫が少ない。向こうで長くキノコ狩りを楽しめるのはそのためらしい。

ひるがえって、阿武隈高地ではキノコを採ったり、食べたりする自然享受権があらかた奪われてしまった。

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