年が明けて間もない日の夕方、隣家のご主人がやって来た。「白い猫が動かないでいる。お宅の飼い猫ではないですか」
猫は、飼ってはいない。地域の「さくら猫」である。避妊手術をした印が耳に入っている。庭に現れたのでカミサンがえさをやるようになった。
姿を見せるのはキジトラの「ゴン」と、全身が真っ白な「シロ」の2匹。シロは、系統的にはペルシャなのか、モフモフとしていて、あごのあたりの毛が特に長い。
そのシロが動かない? 「死んでいたらこちらで片付けますから」。そのときはそれで終わった。
夜、カミサンが懐中電灯をつけて見に行くと、隣家の駐車場の手前で息絶えていた。わが家の庭からはわずか10メートルほどの距離だ。
前日の夕方、えさをやっても食べずに姿を消した。「様子がおかしい」。カミサンが首をかしげた矢先だった。
老衰は、ちょっと考えられない。急に死んだ。病死なら、肥満体だったことが関係しているのだろうか。
シロは去年(2025年)の5月ごろ、どこからともなく庭にやって来た。気品があるといえばあるのだが、それがお高くとまっているようにも感じられた。
そのわがままさがときどき現れた。若いゴンを威嚇する。軒下にあるゴンの寝床を奪う。カミサンはそれで、新たにゴンの寝床を用意した。
シロは、人間に対しても横柄なところがあった。ちょっと目を離したすきに茶の間に上がり込む。「コラッ」。一喝すると脱兎のごとく庭へ走り去る。
そのくせ、えさをやるカミサンにはすぐなついた。カミサンの代わりに、私がえさやりをしたときも、最初は私を避けて突っ走り、少し先からこちらを振り返って見ていたのが、だんだん距離を縮めて「ニャー」と鳴くまでになった。晩秋には足元にすり寄って一周までした。
「猫たちも大変だなぁ」。去年の夏の酷暑にはつい同情したものだ。あるとき、シロは車の下に潜り込んで日差しを避けた。毛皮を着ているから人間以上に暑さがこたえたのだろう。
しかし、そこは猫である。高いところが好きなのは本性にちがいない。梅雨に入ったばかりのころ、太陽が西に傾くとシロが現れて車の屋根の上で横になった=写真(2025年6月18日撮影)。
ゴンもそうだが、シロは生け垣を利用して、よく義弟の家の屋根に上って休んでいた。
やって来る方角も決まっていた。シロは南の隣家か義弟の家の方から現れた。「本宅」がそちらの方にあったのだろう。
それからの推測だが、衰弱したシロは本宅(の方)へ戻ろうとして、途中で力尽きたようだ。にしては、体がわが家の方、こちらを向いていたが……。
飼い猫ではなくても、えさをやっていた責任がある。カミサンがタオルに包み、古新聞で覆って袋に入れ、廃棄物処理法に従って私がとむらった。