2009年10月29日木曜日

カントリー・ダイアリー


夏井川渓谷(いわき市小川町)の無量庵で、時折、めくる絵本がある。エディス・ホールデン作、岸田衿子・前田豊司訳『カントリー・ダイアリー』と、ジョン・T・ホワイト=文、エリック・トーマス=絵、鈴木晶=訳『カントリー・ヘッジ』だ=写真。いずれも30年近く前、サンリオから出版された。

ホールデンはイギリスの挿絵画家。ナチュラリストでもあった。1920年、49歳のときにテムズ川のほとりでクリのつぼみを採集中、おぼれ死んだ、と略歴にある。その著者が35歳のときに文章と絵でかき残した「1906年の自然観察日記」だ。英国の田園の野草・木の実・昆虫・野鳥・菌類などが色鮮やかに描かれている。

ホワイトは英国の田園に関する教師・作家、トーマスは村で暮らすイラストレーターだそうだ。英国の田舎の典型的な風物である「ヘッジロー(生け垣)」の歴史・四季、そこにすむ動植物の生態などを克明に描き出す。

土いじりに疲れると、お茶でも飲みながらぼんやり挿絵を眺める――そんな時間を過ごすのにもってこいの絵本だ。自然に流行はない。人間の暮らしはともかく、100年前も、500年前も、鳥や花は同じような生活サイクルを生きていただろう。それを確認する絵本でもある。ターシャ・テューダー(1915~2008年)に先行する田園生活の記録と言ってもいい。

5泊7日の北欧の旅を経験してから、この絵本への気持ちが変わった。絵に描かれている風景が身近に感じられるようになったのだ。向こうの野鳥やキノコを見たのが大きい。

胸と顔、額の赤いヨーロッパコマドリが絵本に出てくる。英国では雄は留鳥、そして国鳥だ。その鳥をノルウェーの屋敷林で見た。同じく絵本に描かれているイエスズメもノルウェーのフィヨルドで見た。カササギはスウェーデンとデンマークで。

「ぼんやり眺める」だけだったのが、絵本を「しっかり眺める」に変わった。そんなところにまで意識の変化が現れるとは思わなかった。

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