2009年10月30日金曜日
「左助」も天に帰ったか
早朝の夏井川堤防で――。ずっと道の先からこちらへ向かって歩いて来る人がいる。最初は米粒くらいだったのが、だんだん大きくなった。どこかのおばさんだ。
すぐ近くまで来たとき、頭上を何羽かのコハクチョウが鳴きながら東へ向かって行った=写真。すぐさまカメラを空に向けたので、時々会う人間と分かったのだろうか。そばに来ると、いきなり声をかけられた。「『左助』がいないんだ」。ハクチョウにえさをやっているMさんの奥さんだった。「左助」を探して歩いて来たのだろう。
コハクチョウが飛来するようになって、Mさん夫婦の朝の仕事が増えた。翼をけがして飛べなくなった残留コハクチョウには一年中、えさをやっている。秋が深まり、コハクチョウが渡って来ると、彼らにもえさをやる。
平・中神谷の夏井川上空にこの秋初めて、コハクチョウが姿を見せたのは10月15日早朝。すぐ車で夏井川河口へ向かうと、「左助」にえさをやりに来ていたMさん夫婦と出会った。そのとき聞いた話では、残留コハクチョウ3羽のうち「左吉」と「左七」の2羽が消息を絶った。最古参の「左助」は元気、でも「今朝は姿が見えない」のだという。
それ以来、2週間ぶりの再会だ。「コハクチョウが海の方に飛んで行きましたね」。奥さんは「高久に行くんだわ」。「滑津(なめつ)川ですか」「そう」。そのうち、Mさんが軽トラでやって来た。「左助」も、Mさんが「姿が見えない」と言ったその日以来、消息を絶った。「左助」の面倒をみるようになって8、9年。こんな事態は初めてだ。
ハクビシンやキツネ、タヌキが「左助」のいる下流部に増えた。中神谷の対岸に生えていた竹林が伐採され、土砂除去工事が行われている。そこをねぐらにしていた生き物が下流へと追われたという。その結果かどうか、Mさんは「朝早く行くと、ハクビシンなんかが堤防の道路を横切るようになった。左助も天敵にやられたんではないか」と案じる。
次の日の早朝、散歩の代わりに車を飛ばして滑津川を巡った。コハクチョウの姿はなかった。常に朝、滑津川に向かうグループがいるとは限らないのだ。帰りは海岸に出て夏井川の河口から左岸堤防を戻った。「左助」がいるはずのところには、カモが何羽か浮かんでいるだけだった。
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