2009年10月28日水曜日

ニシンの道


10月22日の「フロム鉄道」で書きもらしたこと――。

日本には、海から山へ向かう「塩の道」があった。たとえば、いわき地方の「塩の道」は江戸時代中期以降、中之作―江名―七本松―平城下を経て、今の国道49号とほぼ重なる好間―合戸―上市萱―三坂―蓬田―守山を通り、棚倉ないし須賀川、会津へと至るルートが固定化した(いわき地域学會編『新しいいわきの歴史』)。

この「塩の道」と同じように、ノルウェーにも海から山へ向かう「ニシンの道」があった。

フロム鉄道が敷設される以前、フィヨルド奥地のフロムから標高866メートルのミュールダルを目指して、フロム渓谷のつづら折りの急坂を馬が往来した。ニシンを運んだのだという。ニシンは樽詰めの塩蔵品だったろうか。

フィヨルドガイドのアダチさんによれば、馬は「フィヨルド・ポニー」と呼ばれる。背が低く、がっしりしている。言うことを聞いておとなしい。農作業、馬車引き、乗用、なんでもござれだ。

ノルウェーのガイドブックを開くと、氷河をバックに観光客の乗った馬車が小さな橋を渡る写真が載っている。その馬が、おそらく「フィヨルド・ポニー」。

切り立った崖の山道だ。ちょっとでも馬が暴れたら、人も馬も谷に落ちかねない。忍耐強くスタミナのある「フィヨルド・ポニー」だからこそ、可能な苦役だったのだろう。

ミュールダルからフロム鉄道の列車で渓谷を下り始めたばかりのころは、まだ谷が浅く、大地も緑に覆われて穏やかだった=写真。が、フロムへと駆け下ったあとに振り仰ぐと、天上はるかに山があった。あらためて渓谷のスケールの大きさに息をのんだ。そこへ「ニシンの道」を開いたノルウェー人の剛健さにも。

0 件のコメント: