2009年2月19日木曜日

夏井川河口開削工事


ギリシャ神話に「シジフォスの岩」がある。一般には「シジフォス(シシュポス)の神話」として知られる。アルベール・カミュの評論「シジフォスの神話」で初めて知った、という人が多いのではないか。かくいう私もそうだ。

シジフォスは、告げ口・誘拐・近親婚・策略などが渦巻く神々の世界でゼウスの怒りに触れ、罰として地獄で巨大な岩を山頂まで押し上げることを命じられる。あと少しで山頂に着くというときに、岩は下まで転げ落ちる。シジフォスはまた下から岩を押し上げなければならない。すると、岩はまた山頂から転げ落ちる。この、終わりのない苦役。

「シジフォスの岩」は「徒労」を意味するという。無益で希望のない労働、絶望的状況などのたとえにも使われる。なぜこの話を持ち出したかというと、夏井川河口の開削工事に「シジフォスの神話」が重なって仕方がないからだ。

先日、夏井川河口へ行ったら閉塞部で黄色いバックホーとブルドーザー、ダンプカーが稼働していた=写真。太平洋を背にバックホーが砂をすくい上げ、ダンプカーがそれを「池」に埋める。ブルドーザーが同じく砂を「池」に押しやる。横に広がった「池」に浚渫した砂を捨てて、川の水がまっすぐ海へ流れるようにしようというわけか。

開削工事の発注者は福島県いわき建設事務所。昔から夏井川は河口閉塞と無縁ではなかった。が、こんなに開削工事をしなければならなくなったのは、ここ最近のことだろう。夏井川自身に、寄せてくる海の波をはねのける排泄能力がなくなった。山が荒れ、ダムができ、人工海水浴場ができた。そんなことが絡んでいるのではないか、という人もいる。

今度の開削工事費用は、落札結果を見る限りでは500万円弱らしい。工事をするたびに500万円前後が砂に消え、海に飲み込まれていく、ということだ。人間がつくった「シジフォスの砂」である。

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