2009年2月8日日曜日

オニグルミの葉痕


冬の夏井川渓谷(いわき市小川町上小川字牛小川)を巡る楽しみの1つに、冬芽と葉痕観察がある。何度も書いているが、わが埴生の宿(無量庵)の畑は、午前中は表土が凍ったまま。生ごみを埋めるにしても、しばらくはぶらぶらしているしかない。

で、朝はだいたい森に入ったり、家の前の県道を歩いたりしながら、あれを見たりこれを見たりして過ごす。幼児が体を動かしながら次々と興味・関心を切り替えていくように、途切れることなく見る対象を変えていく。渓流・樹形・野鳥・雲・キノコ・滝……。それらがアドリブの音符となって歌を構成しているような感覚に包まれる。

その中でも見飽きないのが、県道沿いの谷側に1本生えているオニグルミの葉痕だ。葉痕は1つひとつ違う。枝の尖端に頂芽をいただく葉痕は「兜をかぶったミツユビナマケモノ」、その下にある葉痕は「モヒカン刈りの面長プロレスラー」、左右に伸びる枝のすぐ上の葉痕は「目覚めたばかりのヒツジ」=写真

葉痕だから直径は1センチにも満たない。意識してみなければ、それとは分からない。見れば、その輪郭がサルやヒツジ、ときにヒトの顔の輪郭とだぶる。その輪郭の中に散りばめられた維管束痕が哺乳類の目・鼻・口を連想させる。なんとなくとぼけた味が漂う「温顔」がいい。皮肉家もフフッと口元を緩めるに違いない。

当然、オニグルミ以外にもさまざまな形の葉痕がある。フジは困って眉を寄せた肥満顔。アジサイは長い頭巾をかぶった三角顔。ナンテンは三角錐だ。パンダ顔のクズ。下向きの冬芽の上に仏の顔を浮かべたシダレザクラ。サンショウは十字架を背負った殉教者のよう。

葉が開き、花が咲いているときにはさっぱり識別できなかった木も、冬に葉痕で特定できる場合がある。恋する人の名前を知りたいためにあの手この手を使うのと似る。冬はルーペが欠かせない。

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