2009年2月28日土曜日

こんにゃ食う


先日のことである。夕方、企画展準備手伝いのカミサンを迎えにいわき市暮らしの伝承郷へ行ったら、テレビのクルーが来て生中継をしていた。そのあとにも奥の民家で「民話語り」の生中継があるという。ギャラリーの1人に加わった。

伝承郷で活動している「キッズ民話語りの会」の指導者が「桃太郎」を語る。動員された子どもたちが聴き手になって「あー、それから」と合の手を入れる=写真。桃が川の上流から流れてくるときの様子が、「ドンブラコドンブラコ」ではなく「ツンプクカンプク」だった。

20代後半、3歳か4歳の息子を寝かしつけるために「桃太郎」を語ってやった。が、「ドンブラコドンブラコ」ではどうも面白くない。手垢にまみれている。いろいろ本を漁ったら、「ツンプクカンプク」と語るローカルな「桃太郎」があった。これだ。以来、「桃太郎」の桃が流れてくる様子は、私の中では「ツンプクカンプク」である。

民話の語りを聴きながら、2月16日に見たNHK[鶴瓶の家族に乾杯]が頭に浮かんだ。民話の里の遠野市で、小学1年生だったかが「豆腐とこんにゃく」を披露した。こんにゃくに方言の「こんにゃ(今夜)食う」を引っかけた笑い話だ。

棚から落ちて大けがをした豆腐をこんにゃくが見舞う。「お前はなんぼ棚から落ちてもけがすることがないからいいな」。豆腐がこんにゃくをうらやましがる。すると、「いやいや、おれだって生きたそらねえ」。こんにゃくが言う。「ほだって、毎日『今夜食う(こんにゃくう)、今夜食う』って言われるもの、生きたそらねえべや」

それはそうだ。「こんにゃ=今夜」の方言世界に暮らした者には、こんにゃくの言い分がよく分かる。

民話は土地の精霊が生み出した方言に徹するのがいいのではないか。なまじよその人にも分かってもらおうと、共通語に近い「方言もどき」にすれば味わいは失われる。土地の精霊だってあきれて逃げて行く。そんなことを考えながら、しかし、これは民話に限らない話だぞと思った。

観光でもなんでも本物のローカルを磨きあげることだ。地域はそれでいっそう輝きを増す。

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