2009年2月21日土曜日

「トトロの家」のよう


知人の親の家が解体されることになった。築50年前後、空き家になってからでもかなりの時間がたつ。必要なものはあらかた運び出してある。残った本なり家具なり、ごみとして出す前に見てよかったらどうぞ――。そんな連絡が入った。

リサイクル業者ではもちろんない。が、カミサンが古着のリサイクル団体に所属し、別のルートでリサイクルの食器類を必要とする個人も知っている。ということで、声がかかれば見に行く。私が欲しいと思うものは当然、ことわっていただく。自然・人文・社会科学なんでも可で、辞書や事典、専門書が多い。

その家は旧城下町(近世)より古い、旧・旧城下町(中世)のはずれにあった。平屋で和洋折衷、広いリビングルームには暖炉もある。持ち主は炭鉱関係の技術者だった。狭い通りからさえ遠く離れた林に沈んでいる家、いわば「トトロの家」のような印象を受けた=写真

もとは農地ではなかったろうか。家の前に小さな農業用水路があり、家の裏には川が流れている。川と家との間には孟宗竹と木々が茂っている。冬の防風とブラインドを兼ねた林だ。林のわきには畑もある。

車を前提にした今の社会から見たら、<こんなところに>と口をあんぐりしてしまう不便な場所だ。そこだけ時間が止まっている。「トトロの家」でなければ、「剣客商売」の老剣客・秋山小兵衛とおはるの住む鐘ケ淵の「隠宅」を林の中に移した感じ。

「別荘」と言った方がふさわしいが、家族が泣き笑いしながら過ごした立派な生活の拠点だ。昔は歩いてバスや車が往来する通りまで出た。それが普通だったのだろう。そんなはじっこにある家だから道が狭い。途中から車をバックさせながら狭い橋を渡って家の庭に入った。

「トトロの家」はやがてログハウスに生まれ変わるらしい。ということは、本当の別荘か隠宅になるのだ。街から遠く離れた森や海辺に隠れ家を求めるのは、よくあること。町の一角でも、場所によっては立派な隠れ家ができる。遠い近いではない。やすらげるかどうか。やすらげる空間なのだろう。

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