2009年9月7日月曜日

ベンチを覆うクズ


散歩コースの途中に国道6号常磐バイパスの終点がある。本道との合流部斜面は照葉樹の森だ。「草野の森」という名前がついている。バイパス完成を祝い、2000年に小学生たちが参加してポット苗を植えた。平たん部は広場で、ベンチが取り付けられてある。

夏の早朝5時過ぎ、このベンチに座ってハーモニカを吹いている女性がいた。年のころ70代半ばといった感じ。広場を横切りながら聞くともなく聞くと、耳なじみの童謡だった。次の日も同じようにやって来て、ハーモニカを吹いていた。

女性、ハーモニカ――というところが面白い。先年亡くなったカミサンの伯父もハーモニカを持っていた。形見に私がもらった。ときたま引っ張り出して吹く。大正生まれのオヤジたちの世代には、ハーモニカは身近な楽器だったのだろう。団塊の世代にもフォークソングに欠かせない楽器としてなじみがある。

学習発表会で合奏するために教え込まれた木琴などとは別に、親が持っているから覚えた最初の楽器がハーモニカだった。ギターはそのあと。

女性はいつ、ハーモニカを学んだのだろう。子どものときか、大人になってからか。童謡は子どものころに聞いたものか、大人になって覚えたものか。なぜ家ではなく、ベンチまでやって来て吹く気になったのだろう。天気がいいからか。――散歩の途次、次から次へと疑問がわいてきて、しばらく知りもしない彼女の人生について考えをめぐらした。

その後、女性は姿を見せない。するとまたどうしたのだろうと、推測が始まる。目に止まって気になるもの、たとえばシイの大木や記念碑などにも植えられた時期や建立されたいわれなどを知りたくなる。店がいつの間にか変わっていたりすると、それも理由を推測したくなる。

要は、散歩という名の“推測歩き”をしているのだ。物語をつぐもうとしているのだ。いや、どんな些細なものにも物語はある。それを読みたいのかもしれない。

合流部斜面から繁茂したクズがしのび寄り、脇の木にも、ベンチの脚にもからみつき始めた=写真。葉っぱも透き間からのぞいている。

去年は晩秋になって、斜面がきれいに“散髪”された。先週の木曜日(9月3日)には、車道にはみ出した草が刈り払われた。広場側の草はそのままだ。去年と同じ時期に草刈りが行われるとすれば、日ならずしてベンチはクズに覆われる。それも物語のひとつになるか。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

それにしても雑草が鬼気迫るなんとも悲しい光景ですね。
せっかくのコミュニティ「場」も台無しです。
夏はいつも緑覆い尽くす雑草に人間の無力さを感じます。
きれいにしてやれば心も晴れるのに・・・
誰も人任せなのでしょうねぇ