2008年8月21日木曜日

蝉のささやきを聞いた


月遅れ盆に、「蝉時雨」ならぬ「蝉豪雨」に耳をふさぎたくなった話を紹介した。そのとき触れなかったが、蝉の「ささやき」も聞いている。至近距離にいたから分かった、不思議な弱音(じゃくおん)だ。

疑問がわいたら、「知の森」いわき総合図書館に分け入る。橋本洽二著『セミの生活史』(誠文堂新光社刊)で、いろんな蝉の歌があることを知った。

誰でも知っている鳴き方、たとえばミンミンゼミ=写真=の「ミーンミンミンミー」、アブラゼミの「ジージリジリジリジリ…」は、便宜的に「本鳴き」と呼んでおく、と著者はいう。その伝で、1、2回鳴くごとに転々と場所を変える「鳴き移り」、恋歌でもある「さそい鳴き」、鳴いていないときにポツンと出す「ひま鳴き」、人間につかっまたときの「悲鳴」などがあるそうだ。

そして、近くに寄らなければ聞こえない弱い音「つぶやき」があるという。ミンミンゼミなら「ワーンワーン」。字に書けば「ワ」音の連想でにぎやかに聞こえそうだが、私の聞いた「ささやき」が著者のいう「つぶやき」と同じなら、小さな小さな音だ。その音は超音波のように透き通っている。

両手の指で6人分ほど生きてきたが、そんな蝉の「つぶやき」に気づいたのは今度が初めてだ。なぜ今まで聞こえなかったのだろう。

たぶん、蝉と言えば「本鳴き」という先入観にとらわれてしまっていたのだ。感受性がよろいを着て歩いていては、なにも見えない、聞こえない。いくつになってもそうだが、少年のように頭をからっぽにして相手と向き合うことだろう。

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