2008年8月18日月曜日

県道から列車が見える


夏井川渓谷(いわき市小川町上小川字牛小川)でまた一つ、昔の景観がよみがえった。県道小野四倉線と磐越東線の間の細長い民有地に植えられた杉苗が切られ、土手から線路際へと続くやぶがきれいに刈り上げられたのだ。

牛小川のわが無量庵の隣に古い家があった。持ち主のAさんがこの春、家を解体し、谷側と山側(道路と線路の間)に植林した杉を伐採した。この結果、隣地は広い空き地になり、ほぼ40年ぶりに人工林のない景観が復活した。

Aさんには、杉林が渓谷の景観を遮り、損なっているという思いがあった。借家人がよそへ移ったのを機に、Aさんは景観の復活へと動く。それを牛小川の住民は喜んだ。杉苗を植えたBさんも、よみがえった景観に心が動いたらしい。

35年近く前、無量庵に接した県道の側溝は素掘りで、夏井川の支流・中川から引いた冷たい水が流れていた。生まれたばかりのわが子の哺乳瓶を、そこで冷やしたこともある。道路向かいのBさんの土地は畑に使われていたかして、土手の草もきれいに刈られていた。行き来する列車もよく見えた。

やがて道路の土手はササに覆われ、線路際までやぶが繁茂するようになった。数年前、土手の上に杉の苗が植えられた。人間の背丈まで育つには育ったが、管理が難しい場所らしく、すぐつる性植物にからまれる。そうした状況のなかでAさんが土手の斜め向かい、谷側の杉林を伐採したのだった。

柿の木が1本だけ残されたほかは、土手のササも、杉苗が植わってあった平地も五分刈りの坊主頭のようにさっぱりと刈り払われた。再び、ほぼ30年ぶりに無量庵の前の県道から行き来する列車が見えるようになった=写真。

私はこの2件の例から、自然景観と環境に対する土地所有者の考え・行動がなにか新しいステージに入ったように感じる。それは思い込みに過ぎないと言われようとも、夏井川渓谷に限ってみれば、住民の実践力はそういう段階に入ったと断言できる。

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