2025年11月19日水曜日

「空飛ぶ微生物」

                                          
   昔、見えないキノコの胞子を想像して、こんな文章を書いた。

――キノコは子孫を残すために胞子を飛ばす。その胞子が目の前の空中に漂っている。キノコの胞子は空を行き交う旅人。南からの台風が、西からの季節風が、東風が、北風が、海を、森を越えて胞子を運ぶ――。

 台風はシイタケ胞子の運搬人。それをイメージしてのことで、「胞子は空を行き交う旅人」という思いは今も変わらない。

胞子を飛ばす前のキノコも、比喩を用いるとわかりやすい。キノコは森の清掃人。枯れ木や落ち葉を分解し、栄養を土に返して森を清浄に保つ。

同時に、菌根菌として森の植物と共生し、木々の生長を助ける。食用としても重宝される。もちろん、毒キノコもある。それを含めて、知れば知るほどまた興味がわく。

 先日、またまた「ええっ」となった。「空を行き交う旅人」には別の役割もある。キノコの胞子を含む「大気微生物」が雲をつくり、雨を降らせるというのだ。

 牧輝弥『空飛ぶ微生物――気候を変え、進化をみちびく驚きの生命体」(ブルーバックス、2025年)=写真=で知った。

 本は「です・ます」調で書かれている。これを「である」調に替えて、印象に残った比喩的な表現を紹介する。

・人は大量の微生物を肺で吸い込んで吐く「人間ポンプ」である。呼気を通じて体内を通過する微生物は一日に約125万個。

・生物に由来する大気粒子は総じて「バイオエアロゾル」と呼ばれる。「人間ポンプ」は微生物だけでなく、バイオエアロゾルの発生装置でもある。

 ・春には黄砂が日本に届く。黄砂は、もともとは砂の鉱物粒子だが、中国都市部で汚染大気にまみれ、日本海で海塩を巻き込むので、鉱物やスス、海塩の混合粒子になる。その意味では、黄砂は「微生物の空飛ぶ箱舟」である。

 ・シイタケは広葉樹であれば種にかかわらず宿主として繁殖できる。動物の死骸や植物の枯死体にも生息できる腐生菌なので、胞子をまき散らし、長距離輸送で生息域を拡大できる。

 なるほど。南方生まれのシイタケが日本列島のみならず、北海道の先のサハリン(樺太)でも採れるワケがこれか。

ちょうどこの本を読み進めているとき、「あさイチ」(11月17日)がキノコ特集を組んだ。冒頭で『空飛ぶ微生物』を書いた牧輝弥・近畿大学教授の研究が紹介された。キノコが雨を降らせる。そこから番組が始まった。なんという偶然。

もう一つ。魚介類に関しては「さかなクン」がいる。そのさかなクンも出演していた。本筋はしかし、「坂井きのこ」というキノコ愛がいっぱいのタレントだ。

長野県在住の35歳で、キノコのすばらしさを伝えるためだけに芸人活動をしているという。

50歳のさかなクンを尊敬しているらしく、感激の対面となった。魚介類はさかなクン、キノコは坂井きのこクン。キノコの分野でも特異な才能を発揮するタレントがいることに驚いた。

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