2009年7月6日月曜日

葉タバコの花


阿武隈高地の換金作物の一つに葉タバコがある。今ではすっかり厄介者扱いされ、愛煙家も減少傾向をたどっているために、生産農家はひところよりだいぶ減った。それでも水田のかたわら、一段上に葉タバコ畑が展開する光景は昔と変わらない。

田村市常葉町の実家へ帰る道すがら、葉タバコが花期を迎えたのを知る。山あいの道を行くと、葉タバコ畑が目の前に現れる。どこの畑でも背高のっぽの葉タバコの先端につぼみが付いている。1~2輪、花が咲いたものもある。

葉タバコはナス科の植物。ラッパ状の、小さくかれんな花を四方八方に付ける。そう簡単にお目にかかれるものではない。

次の日(7月5日)、田村市船引町経由でいわき市へ戻った。船引にも葉タバコ畑が広がっていた。青空を背景にピンクの花が鮮やかだった=写真

小学5年か6年のとき、夏休みに「タバコはさみ」のアルバイトをしたことがある。畑のそばの乾燥小屋に入って、農家の主が摘んで来た葉タバコを縄に等間隔にはさんでゆく。指はたちまち葉タバコの樹脂で黒くなる。縄一連がいくらにもならない超低賃金だったが、小遣い銭欲しさに我慢して続けたものだ。

冬は冬で、「タバコのし」のアルバイトがあった。それは中学1年生のときだったように思う。夏場に自然乾燥をさせ、しわしわになった棒状の葉タバコを一枚一枚のして、つまり広げて積み重ねてゆく。出荷前、葉タバコ農家はこの作業で大忙しとなる。近所の子どもの手も借りて毎晩、「タバコのし」が繰り広げられた。

葉タバコは茎の部位によって呼び名が異なる。根元から上に向かって下葉・中葉・合葉・本葉・上葉・天葉という。下葉は子どものころ、「土葉」(どは)と言っていたと思うが、記憶違いだろうか。「本葉」(ほんぱ)・「天葉」(てんぱ)という呼び名は今でもはっきりと覚えている。

葉タバコの花は、子どものころには見たことがない。夏休み前に花が摘み取られていたからだ。

葉タバコの花期は7月中旬。2~3輪咲いた時点で花を摘み取り、芯止めをする。そうしないと養分が葉に行き渡らなくなる。7月といっても夏休み前。葉タバコ農家の子どもではないから、葉タバコ畑には縁がなかった。花にはもっと縁がなかった。

いずれ、阿武隈高地から葉タバコ畑が消える日が来るだろう。たばこに関する大きな潮流は「消滅」へと向かっている。葉タバコの花を見ながら、あと何年この花と対面できるだろうと、少し感傷的になった。

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