2025年10月14日火曜日

続・梨木香歩の本

                                          
 久しぶりに作家梨木香歩の本を読んだ。小説『冬虫夏草』と、エッセー集『歌わないキビタキ――山庭の自然誌」』の2冊で、10月2日のブログでこれらの本について触れた。

 梨木香歩は鳥類や植物だけでなく、菌類にも関心が深い。しかも、「糠床小説」まである。

――その昔、駆け落ち同然に故郷の島を出た私たちの祖父母が、ただ一つ持って出たもの、それがこのぬか床。戦争中、空襲警報の鳴り響く中、私の母は何よりも最初にこのぬか床を持って家を飛び出したとか」 (小説『沼地のある森を抜けて』)

こういう表現に引かれて梨木香歩が頭に住みついた。といっても、ずっと本がそばにあるわけではない。

引いたり満ちたりする波と同じで周期がある。同時代の作家では数少ないネイチャーライティングの書き手でもあり、『歌わないキビタキ』を図書館に返したあと、また3冊を借りた。

その中の1冊、『渡りの足跡』(新潮社、2010年)=写真=は、「ときに案内人に導かれ、知床、諏訪湖、カムチャツカ」などへと、渡り鳥の足跡を追ったエッセー集である。つまりはバードウオッチングを続ける作家自身の足跡の記録でもある。

冬鳥のオオヒシクイを見に新潟県の福島潟へ出かけた「コースを違える」には、コハクチョウも出てくる。

この本を読み始める前の10月9日、猪苗代湖に去年より3日早くコハクチョウの第一陣52羽が飛来した、とテレビが報じていた。

いわきのコハクチョウを見てきた経験則でいうと、猪苗代湖の初飛来からおよそ1週間後には夏井川にコハクチョウが現れる。明15日に飛来してもおかしくない。

で、頭は既にハクチョウに占領されている。10月12日の日曜日はマチからの帰りに夏井川の堤防を利用した。新川合流部にコハクチョウがやって来る。

この日は、小川・三島には残留コハクチョウの「エリー」がいるだけだった。新川合流部にも姿はなかった。

代わりにというわけではないが、堤防に出るとすぐ上空でホバリングしている大きな鳥がいた。

鳥はそのあと急降下し、水面をかすめながら急上昇した。足には獲物の魚はなかった。狩りに失敗したのだ。

車の真ん前を横切ってそばの電柱のてっぺんに止まるとき、白い顔に目を横切る黒い線が見えた。タカのミサゴだった。ミサゴは電柱に止まったと思ったらすぐ、カラスに追い払われた。

梨木本に戻る。この本で特に興味を持ったのは、ロシアのウラジオストク経由でサハリンを横切り、カムチャツカ半島に飛んで、エトピリカやツノメドリ、オオワシ、オオセグロカモメなどをウオッチングしたくだりだ。

「案内するもの」の章で、「秋になれば、カムチャツカのほとんどすべての鳥は、渡りを始める。体重十グラムも、五千グラムも。群れになって、あるいは単独で」。

この最後の文章から、かの地の極寒ぶりが想像できた。カムチャツカ生まれの冬鳥がいわきに来ていても不思議ではない。

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