2008年11月26日水曜日

『新宿鮫Ⅸ 狼花』2冊


好きな時代小説は池波正太郎の『鬼平犯科帳』、現代小説は大沢在昌の『新宿鮫』。人間がきめこまやかに描かれている。『新宿鮫』シリーズ9作目「狼花」が<カッパノベルス>になって発売された。新聞広告がドンと出たので、思わず「最新刊に違いない」と買いに走った。

『新宿鮫』の魅力は物語の展開が緊張感にあふれていることだ。面白くないはずがない。といっても寝床で読むので、睡魔が邪魔をしてなかなか先に進まない。何ページも読まないうちに、『狼花』を以前、単行本で読んだことを思い出した。

ある日、客人がやって来た。本棚のある部屋で話をしていたら、『狼花』という背文字が目に留まった。『狼花 新宿鮫Ⅸ』。2006年9月初版第一刷の単行本だ。この本を読んでいたことをすっかり忘れていたのだ。

たった2年前、夢中になって読んだはずなのに、すっかり記憶が欠落している。文字の小さいノベルス版をやめて再び単行本を読み出したら、少しずつあらすじがよみがえってきた=写真右

現実には大麻事件のニュースが頻発している。「大麻による摘発が今年、過去最悪になる見込みだ。警察庁によると、栽培や所持など大麻取締法違反容疑で逮捕や書類送検された検挙人数は、10月末現在2,149人で、昨年同月の1.2倍に増えている。これまで最悪だった06年を上回ることも確実だ。10年前と比べて2倍のペースになっている」(朝日)という。

『狼花』に、頭の切れる広域暴力団員が大麻について語るくだりがある。大学生が立て続けに摘発されたニュースを見て「これか」と思った。

「しゃぶと並んで大麻は、日本では市場が大きい。なんでかというと、素人が手を出しやすいからや。ひとつ、しゃぶやヘロインとちがって依存性が低く、体に悪くない、と思われている。ふたつ、自家栽培ができて、面倒な化学合成などをせんでもすぐに楽しめる。みっつ、しゃぶには極道がからんどる暗いイメージがあるが、大麻はお洒落な印象がある。マンションの部屋をひとつまるまる使って、大麻の自家栽培をやっている素人は多い。……」

上記のような理由で若者がいとも簡単に手を出す、そんな風潮が蔓延しているのだろうか。                                                     
事実は小説より奇なりという。が、小説が事実の先を行くこともある。『新宿鮫』に引かれるワケは虚実皮膜のあわいで現代社会の暗部をえぐってみせてくれるから、らしい。それによって、今暮らしている日本の社会についてのリアルな感覚を磨くこともできる。『新宿鮫』が伝えるのは読む快楽と現代日本の危うい状況だ。

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