2008年12月3日水曜日

雨粒の衝撃


夏井川渓谷の無量庵に家庭菜園を「開墾」して10年余がたつ。種まきと定植、そして日照りが続いたとき、ホースを伸ばして水をやる。隣の電力社宅跡にある井戸を借りて水道管をつなぎ、ポンプアップをして生活用水にしている。この水を畑にも使うのだ。

野菜に散水するとき、いつも地べたにいるアリや葉っぱのクモの目線が脳裏に浮かぶ。晴れているのに突然、空から「雨」が降ってくる。なんだ! どうして? アリどもはパニックに陥るに違いない。

アリからみたら予想もできない天気の急変だ。巨大な水のかたまりが降って来る。次から次に降って来る。直撃されたらたまらない。アリは私でもある。いつからか、自分を極小にしてみる癖がついたのだ。昔、NHKで放映されたアニメ「ニルスのふしぎな旅」の主人公、乱暴で怠け者のニルス・ホルゲションのように。

そのアニメだったか、別の番組ないし映画だったか忘れたが、小人になった少年が、如雨露(じょうろ)の水に流される。人間が如雨露を使ってやる散水が小人には大雨になり、土をぬらした水が洪水になるのだ。日曜日(11月30日)夜のNHKスペシャル「雨の物語」を見ていて、そんなことを思い出した。

「水の森」吉野・大台ケ原。ハイスピードカメラがとらえた雨粒が虫をたたき落とす。それをすかさずアマゴが水面から顔を出してパクリとやる。ホコリタケ=NHKテレビから=が雨粒の衝撃を利用して、てっぺんの穴から胞子を飛ばす。

ホコリタケは別名キツネノチャブクロ。成熟すると「ひよめき」に小さな穴が開く。けとばすとその穴から煙(胞子)が出る。雨でもいい、人間のけとばしでもいい、というキノコの「知恵」には恐れ入る。

日本有数の多雨林、大台ケ原の雨の落下速度は時速40キロだという。同じ速さの車に人間がはねられたら死傷する。小動物にも天から降って来る猛スピードの雨はかなりの衝撃に違いない。

そんな極小、あるいは極大の世界、つまり自然界のことに、ときどき想像力を働かせる。人間だけ相手にしていると、自分がなんだか危ういところに入り込んだような気がして落ち着かなくなるのだ。

そうと意識しているわけではないが、年に何回かは「自然と人間の交通」について考える。鳥の目になり、虫の目になる。星の目になり、石の目になる。風の目になり、花の目になる。釣りをしないから、あまり魚の目にはならないが。要するに、夏井川渓谷は思考のバランスを取り戻す生きた教室なのだ。

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