2011年11月29日火曜日

カメムシの宿


会津・東山温泉の旅館に泊まったときのこと。部屋のテーブルに、カメムシがいたらフロントまで連絡を――というチラシが置いてあった。たまにまぎれこんでいて、客(特に女性?)が大騒ぎするのだろう。夏井川渓谷の無量庵で忘年会を経験している同級生たちは、チラシを見て鼻で笑った。無量庵に比べたら……。

無量庵は、冬には「カメムシの宿」に変わる。雨戸のすき間、座布団と座布団の間、畳んだゴザのすき間と、至る所にカメムシがもぐりこんでいる。そこへ人間が現れ、石油ストーブで部屋を暖めると、いつのまにか一匹、また一匹とカメムシが現れる。独特の臭気に支配されることもある。

夏井川渓谷で虹=写真=を見た日のあと、草野のマルㇳへ買い物に行った。レジで、バングラデシュのジュートでできた折り畳み式のマイバッグを開いたら、底にカメムシがいるではないか。生鮮食品を扱うスーパーである。カメムシを飛ばしたら大変なことになる。あわててティッシュペーパーで押さえこみ、まるめて上着のポケットにしまい込んだ。

その翌日だったか、いわき駅前再開発ビル「ラトブ」の2階にある、被災者のための交流スペース「ぶらっと」を訪ねた。しばらくすると、スタッフが天井の方を見て叫んだ。「カメムシが飛んでる!」。「オレが連れてきたんだな」。間違いない。バシッとやってごみ箱に入れた。

無量庵の庭に車を止めて、荷物を出し入れしていたすきに入り込んだのか。それとも人間に付着していたのが、「ここなら」と後部座席に置いておいたマイバッグにしのびこんだか。「ラトブ」のカメムシは、帽子のつばにでも止まっていたのが飛んだものらしい。

カメムシは、福島県では「ヘクサムシ」と呼ばれる。さいわい臭気噴射に至らず、白い目で見られることもなかった。人間が植物を含む生きものの移動に、知らぬ間に手を貸している、しかも簡単に――うかつにも、それを実行してしまった。

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