夏井川渓谷にある隠居の台所を改築したとき、壁に棚を作った。すぐ本が並んだ。別の壁には本箱を置いた。それもほどなく埋まった。
現役のころは週末(土曜日)に泊まって、翌日曜日に土いじりをした。時間はたっぷりあった。土いじりに疲れると、隠居で本を読んだ。
それとは別に、カミサンが自分で読むために持ち込んだ本がある。そのなかの1冊がカール・ラーション(1853~1919年)の『わたしの家』(講談社)だ。
ラーションはスウェーデンの国民的画家で、『わたしの家』は家族の日常風景を描いて高い評価を得た水彩画集である。妻(画家)のカーリンのアイデアで生まれたといわれる。
妻や子どもたち、家と家具、壁や屋根の色、庭のシラカバの木と草花、湖、雪……。田舎暮らしの四季が生きいきと描かれる。
渓谷の隠居から平の街へ戻る途中、窓枠が赤く塗られた北欧スタイルの住宅に出合って以来、隠居ではラーションの画集をパラパラやるのがクセになった。
朝から30度を超す猛暑の日曜日、なにもやることがなくてゴロンとしていたら、『わたしの家』が思い浮かんだ。
『わたしの家』はウィルヘルム・菊江編著で、1989年に2刷が出た。「解説」を読むのは初めてだ。
解説からネーム・デー、長男ウルフの夭折、8月15日のザリガニ捕りを知った。家の内外と家具のデザイン・色彩も、絵をじっくり見ることでいちだんと印象が強まった。
まずはネーム・デー。向こうでは、誕生日とは別に「名前の日」を祝う習慣があるそうだ。
365日、名前がカレンダーに印刷されている。日本でいえば、さしずめ「太郎の日」「花子の日」などで、その日は全国の太郎や花子がお祝いを受ける。『わたしの家』ではお手伝いのエンマを子どもたちが仮装して祝うシーンが描かれる。
ラーションには長女・長男・次男・次女・三女・四女・三男の7人の子どもがいた。長男は18歳でこの世を去った。
『わたしの家』には、湖畔に寂しそうにたたずむ妻の絵が載る。その解説に、絵だけではわからない母親の悲しみが広がる。
8月15日のザリガニ捕りは、人々が待ちに待った行事だという。日本では終戦の日と月遅れのお盆中で、ところによっては盆踊りなどで盛り上がる。
クリスマスやイースターのように特別の日なのは、この行事を境に寒い冬を迎える準備に入るかららしい。湖畔に網を掛け、ザリガニを捕って料理し、みんなで食べて楽しむ。
家の内外に赤色や白色が目立つのは、「長く暗い冬のあいだ、せめて室内を明るく」というラーションの考えからだった=写真。
それは北欧人一般の感覚でもあるのだろう。還暦記念に同級生の病気見舞いを兼ねて仲間と北欧を旅した。そのとき、やはり建物の色の鮮やかさに目を見張った。
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