菌類(キノコ)を採ったり、調べたりしているうちに、地球の歴史や地質、海洋、古生物などを対象にした地学関係の本も読むようになった。
地球はいつ誕生し、菌類はいつ生まれたのか。そのへんが始まりだった。今では現実の気候変動を踏まえて、地球はこれからどうなるのか、そんな問いまで頭をよぎる。
これは一般書からの受け売り――。地球が誕生したのは46億年前。シアノバクテリアが生まれ、真核生物が現れ、さらに海中で動物と同じ祖先から菌類が枝分かれするのが10億年前という。
菌類はミクロの世界。しかし数年前、いわきの山中で熱帯のキノコであるアカイカタケが見つかったとき、マクロレベルでの気候変動を実感した。
そうしたなかで、レイチェル・カーソン(1907~64年)の『われらをめぐる海』(日下実男訳=早川書房、2004年16刷)を読んだ=写真(同書では「カースン」だが、ここでは「カーソン」で統一する)。カーソンは『沈黙の春』で世界的に知られたアメリカの作家・海洋生物学者だ。
本は1950年、オックスフォード大学出版会から出版された。つまり、75年前。この間、地球の歴史に関する研究は飛躍的に発展し、放射性年代測定によって地球の誕生は46億年前(あるいは45億年前)と認識されるようになった。
カーソンがこの本を書いたころ、「地球誕生は25億年前」が普通だったようだ。現代から見ると明らかな誤りだが、それを「46億年前」に置き換えて読み進める。最初の「海の起源」も、新たな知見を踏まえながら読むとおもしろい。
地球誕生。「母なる太陽から、もぎとられたばかりの新生地球は、旋回するガス体からできた、ものすごく熱いボールであった」
それが冷えていく過程でガスは液体に変わり、重いものは中心へ移動し、軽いものはその周りを取り巻き、それよりもっと軽いものは外殻を形づくるようになった。
この地球の変化が完成する前に月が生まれる。「月そのものが、地球物質の大きな潮汐波(ちょうせきは)のために空間にもぎ取られ、誕生した」
「分裂」説である。が、今はこの説は退けられ、別の天体が衝突して散らばった破片が集まった「巨大衝突」説が有力らしい。
地殻が十分に冷えると、雨が降り始めた。「何年も、何世紀も降り続いた」。大陸塊の岩石はその雨に溶け、中から鉱物質が滲出し、海へ運ばれた。海はそれでだんだん塩辛くなった。海で生命が誕生するのはそのあと。
文体が詩的で美しい。想像力が刺激される。こうした表現に出合うと、「ネイチャーライティング」という言葉を思い出す。
米国で、1970年前後に確立したジャンルで、『われらをめぐる海』はその先行作品といえる。
今度の満月は9月8日である。科学と抒情が融合した、カーソンの月の物語を肴(さかな)に、月見酒といくか。
0 件のコメント:
コメントを投稿