2025年8月1日金曜日

渓谷から見える風車

                                           
    阿武隈の山々のスカイラインにまた一つ、ニョキッと風車が立った=写真。夏井川渓谷にある隠居の少し手前、磐越東線の江田駅を通過し、江田の次の集落・椚平(くぬぎだいら)に入ったとき、山側にチラッと「輪のないベンツマーク」が見えた。

そのときはそのまま隠居へ向かった。川前の神楽山(808メートル)にできた風力発電施設の風車に違いない。

行きずりのドライバーなら、「ああ、風車が見える」で終わっただろうが、隠居の飲み水の水源にできた風車である。

とうとう立ったか――。まずはそんな感慨がよぎった。それからすぐ、オディロン・ルドンの一つ目の巨人の絵が頭に浮かんだ。

巨人はギリシャ神話に出てくるキュクロプス。手前に横たわるニンフをのぞき込むように、山の向こうからヌーッとキュクロプスが姿をあらわした絵だ。不気味だが、ユーモラスな感じがしないでもない。

輪のないベンツマークはその点、簡素なものだ。が、まさか谷間から風車は見えないだろうと思っていただけに、ニョキッと立っているのを見たときにはショックだった。

拙ブログの過去記事によると、2014(平成26)年11月、経産相と福島県の新知事が会談し、福島県内で発電された再生可能エネルギー買い取りを東電に求めることを明らかにした。東電の送電網を活用して、関東方面に送電する、と県紙が報じていた。

風力発電施設の風車はしかし、阿武隈高地では震災前から立っていた。2010(平成22)年に隠居から「スーパー林道」(広域基幹林道上高部線)を利用して、川内村の天山文庫へ出かけたとき、大滝根山の手前の尾根に風車が林立していた。

磐越道を利用して郡山市へ行ったとき、小野町付近から大滝根山と矢大臣山の間に風車の列が見えた。たぶんそれだろう。

稜線の異変は、そこだけではなかった。川内から大滝根山を越えようと、県道富岡大越線を進んでいたら、すぐ右手の山の上に巨大風車が現れた。高さは約100メートル、3枚の羽も長さが40メートルはあるらしい。

震災後はそれこそ県の産業復興計画「イノベーション・コースト構想」に基づいて、建設計画が目白押しになった。そして今や至る所で輪のないベンツマークが見られる。

スーパー林道は神楽山の中腹を縫って南北に伸びる。隠居から駆け上がると、川前・外門の集落を過ぎたところで、風力発電施設への道を知らせる看板に出合う。そこの風車が回り始めたのだろう。

戦後、大滝根山の頂上に進駐軍のレーダー基地ができた。やがて、自衛隊に施設が移管された。稜線に突起物がある――物心づくころからそれを見てきた私は当たり前に思っていたが、古老はそうではなかった。

まっさらな大滝根山ではなくなった、景観を汚されたと、腹立たしい思いでいたのだった。どうも風車に対しては、レーダー基地への古老と同じ感覚のようだ。

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