それほどプハラのコウノトリは市民に浸透し、愛され、生活の一部を占めているのだろう。
草野心平の詩に「コウノトリ自身」がある。前にも紹介したが、プハラのコウノトリはなぜ丸いモスクのてっぺんに営巣するのか、サマルカンドの作家にそれを聞いたときのやりとりを題材にしている。
たまたまその日は心平の誕生日だった。お祝いの乾杯をしたあと、心平が尋ねる。「どうしてモスクの。あんなすべっこいドームを殊更にえらんで巣をつくるんでしょうねコウノトリってのは。あんなまんまるいてっぺんに枯木を集めて。」
「それはね。ミスタア・クサアノ。/も一度プハラへ行ってコウノトリ自身にきくんだね。」。文学者の一人が答えると、どっと笑いが起きた。
ネットで検索したのは、コウノトリの生態・形態を知るためだった。おかげで「なぜはさみなのか」も検索の対象に加わった。
これはネット情報からの引用。プハラの人々は金の糸で刺繡(ししゅう)された民族衣装を着用する。コウノトリのはさみは、この複雑な刺繍に欠かせない道具として生まれた。
プハラはオアシス都市である。水路や池があって、コウノトリが多く生息している。コウノトリは幸せを呼び、豊作をもたらす鳥として喜ばれ、いろんなものにそのデザインが使われているという。
拙ブログを読んだカミサンが、小さな革ケースに入っているはさみを取り出して、「これがそう?」と聞く=写真。
おお、コウノトリのはさみではないか! 「そうだ、これだ」。そのときは小躍りしたが、「でも、これは東京の木屋(きや)のものよ」という。
プハラのはさみではない? とすると、この鳥はなに? まずは日本橋木屋のホームページに当たる。
すると、カミサンのものと同じはさみが現れた。はさみには「KIYA」の刻印が入っている。商品データとして、「刺繍鋏(ししゅうばさみ)・鶴型・革ケース付き」とあった。
形はプハラのコウノトリのはさみとそっくりだが、デザイン化した鳥はコウノトリではなく、鶴(タンチョウヅルかどうかはわからない)だった。
全長は9センチ弱。親指と中指をはさんで古着の糸を切るのに使うそうだ。もうずいぶん前から使っていて、先日は街の刃物屋さんに研ぎに出した。
糸切り用の和ばさみは、子どものころよく見た。母や祖母が針仕事をしていると、必ず手元にあった。爪も伸びると、それで切ってもらった記憶がある。
和ばさみはコウノトリ型(鶴型)ではなく、U字型をしていた。それから見ると、鶴型のはさみはいかにも洋風、そしてシルクロードの匂いがする。
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