2025年8月29日金曜日

朝ドラ、ファクションの妙味

                                         
 月に1回、移動図書館が隣(コインランドリー)の駐車場にやって来る。カミサンが、地域図書館として家の一角を開放しているので、平均30冊ほどを更新する。つまり、前に借りたのを返して別の本を借りる。

 今回借りた本の中に越尾正子『やなせたかし先生のしっぽ――やなせ夫妻のとっておき話』(小学館、2025年)があった=写真。図書館スタッフに勧められたのだという。

 越尾さんは1992(平成4)年春、それまで勤めていた協同組合を辞める。そのことを、茶道の先生(漫画家やなせたかしの奥さん)に報告すると、「あら、うちで働かない?」即座に誘われた。

その年の秋にはやなせさんの会社に入り、以後、奥さん、次いでやなせさんが亡くなるまで、秘書として夫妻に寄り添ってきた。

その後は「やなせスタジオ」の代表取締役を務めている。秘書として20年余、折に触れて聞いた夫妻の話をまとめたのが本書である。

やなせさんに関しては、ノンフィクション作家梯久美子さんが書いた評伝「やなせたかしの生涯――アンパンマンとぼく」(文春文庫、2025年)に詳しい。

しかし、アンパンマンが最初はひらがなで書かれ、あとでカタカナになった理由は、越尾さんの本で初めて知った。

「アンパンマンは、弾むような響きでなくてはダメだ。ひらがなでは、そのリズム感がない。だからカタカナでなくてはと思ったから」その旨を出版社に伝えたという。

東日本大震災の前、常磐にある野口雨情記念湯本温泉童謡館で月に1回、童謡詩人についておしゃべりをした。金子みすゞや野口雨情などのほかに、やなせたかしについても調べて話した。

それもあって、朝ドラの「あんぱん」が始まると、これはやなせたかしと妻をモデルにしたドラマだと、すぐにわかった。

 その後、ブログの読者から梯さんの評伝が文庫で出たことを教えられ、さっそく買って読んだ。

 やなせ夫妻の実人生はそれであらかた頭に入った。『やなせたかし先生――』では、その人生を補強する「肉声」に触れた。

 モデルがいるとはいえ、テレビドラマである。ノンフィクションではない。いうならばファクション=実在の人物や出来事をフィクション化して描いた作品だ。

 特に今回は著名人が次々に登場する。役名は省略するが、手塚治虫、いずみたく、永六輔、立川談志、小島功などの漫画家連……。そして、耳になじんだ曲と歌詞。

8月27日には小4の女の子からのファンレターが紹介され、翌28日にはその女の子が祖父と「やない家」を訪問する。

子どもなのにかなり厳しい言葉を吐く。しかし、父親を亡くしたばかりで、「やないたかし」が書いた詩に救われたというあたりから、こちらの見方が変わっていく。

ファクションからいうと、「あんぱん」の脚本家中園ミホさんがモデルだそうだ。なるほど、大ファンだったのだ。

これからいよいよ佳境に入る。今回の朝ドラは史実とフィクションの交錯が不思議な魅力をかもし出している。

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