2016年2月29日月曜日

ほんとうの川

 夏井川渓谷を代表する景勝は「籠場の滝」。魚止めの滝で、滝を越えようとジャンプする魚を、籠を仕掛けて難なく捕ったのでその名がある。あまりに美しいので殿様が籠を止めさせた――なんて、いつ、だれがいいだしたのだろう(そういう史実があるのだろうか)。
 ふだんは水量が少ない。落下する白い水の帯も細く弱い。ところが、きのう(2月28日)は大雨のあとでもないのに、白い瀑布となって水煙まで上げていた=写真。滝の下流も上流も、あおく澄んでいるのは同じだが、水量がいつにも増して多い。淵はより深くなり、早瀬は流れがより速く、白くなっている。
 
 渓谷の隠居(無量庵)に着いて内外に異常がないのを確かめたあと、周囲をぶらぶらした。それで、「荒ぶる滝」の理由がわかった。
 
 隠居の近くの夏井川に、直線距離で4キロほど下流の発電所に送水する取水堰がある。右岸に隧道(導水路)が伸びる。その水門が閉められ、堰の水門が開いて、水が本川に集中している。
 
 発電所が稼働中は、夏井川のそばに隧道を流れる「第二の夏井川」がある。われわれがふだん眺めている「籠場の滝」は、分水されたあとのおとなしい流れだった。それが、補修かなにかの理由で導水路が底を見せ、ほんとうの川の流れが復活した。
 
 堰の近くに行くと、かすかに生臭いにおいがする。なんだろう。堰のすぐ上流は泥をかぶった石が一部露出していた。泥のにおい? そのなかにひそんでいた虫たちの死がいのにおい? 少し離れると、いつもの空気のにおいになる。
 
 導水路の取水口から隧道までの間に沈砂池がある。底をさらしていた。山側には砂がたまっている。ここから腐臭が立ちのぼっているようには感じられない。やはり、本流の泥の、有機物の腐敗臭だろうか。
 
 それはともかく、渓谷の川はつかの間ではあっても躍動している。荒々しく、エネルギッシュに。川自身が本来の「渓谷の春」を楽しんでいる。特に、「籠場の滝」の白い瀑布と水煙は格好の被写体だ。

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