2010年5月9日日曜日

『売 旅館」


夏井川渓谷の一角に「保養センター」と銘打つ建物があった。いや、今もある。昨秋、店じまいをした。道路沿いに「売 旅館」の看板が立っている=写真。半年以上もたつが、看板は外される気配がない。

JR磐越東線江田駅から夏井川渓谷の籠場の滝へ向かう途中、左側にその建物がある。昼に何度かラーメンを食べに行った。それだけのことだが、内部の印象は強烈だった。しゃれた旅館でもなければ、ひなびた旅館でもない。ただただキッチュな空間だった。

旅館であり、食堂であり、銭湯であり、カラオケハウスであり、リサイクルショップであり、といったあんばいだから、ラーメンを食べている脇で風呂上がりの客が昼寝をしている、それがありふれた光景だった。

版画家や画家の作品が安い値段で壁にかかっていた。誰かのコレクションが流れ流れてたどり着いたような印象を受けた。安値のついた柄沢斉のアンデルセンの版画は救出したものの、雪景色を描いた山野辺日出男の油絵は値段の兼ね合いもあって助け出せなかった。彼の作品はまだ壁にかかっているだろうか。

無量庵への行き帰り、「売 旅館」の看板を見るたびに、何か使い道はないものかと思案する。デイケアやショートステイの施設にどうか――人ごとながら、ついつい建物の生かし方に思いがめぐる。幽霊屋敷になってしまっては、行楽客も地元の住民も困る。

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