2008年5月3日土曜日

立ち枯れ赤松折れる


夏井川渓谷(いわき市小川町上小川字牛小川)の両岸、落葉樹と針葉樹のまじる天然林には、松食い虫にやられた赤松の大木が、白骨となってあちこちに立っている。

私が渓谷の無量庵で週末を過ごすようになってから、まる12年がたつ。松は当時から松食い虫にやられて「茶髪」になったり、樹皮が剥落して白骨化したりする「病変」が続いていた。この12年間は、それが顕著になった時期でもある。

高い尾根のキタゴヨウはまだ緑だが、低い尾根から中腹にかけての赤松はことごとくやられてしまった、と言ってもよい。12年前はまだ緑だった葉が、翌年あたりから茶が交じり、赤い樹肌がさめて、気がつけば葉も樹肌も消えていた。今は白い卒塔婆のように立っている――そんな赤松の大木が何本もある。

直径1メートル以上の大木となると、こずえは相当高い。それが、立ったまま死んでいる。いつ折れて倒れるのか。森の中へ入るたびに、びくびくしながら前を通り過ぎる。

1週間前のこと。無量庵の庭から対岸の森を眺めたら、1カ所だけ、前の週と様子の違うところがある。変に空きスペースができているのだ。しばらく眺めていて気がついた。立ち枯れ赤松が幹の途中から折れて、下部の木々を折ったり払ったりしたのだ。外側は白骨状態だが、折れ口は妙に赤みが濃い=写真=ので、それと分かった。

立ち枯れが目立つようになってから十数年、いよいよ折れ倒れる赤松が出始めた――と考えて警戒するにこしたことはない。夏井川渓谷では、小規模な落石は日常茶飯事だ。嵐のあとの倒木も常態化した。それに加えて、立ち枯れ赤松が折れ倒れる時期に入ったのだ。

峻厳と優しさとが同居する自然のなかで、自然の一部となって暮らし、遊び、学ぶ。そのためにも、渓谷は危険な場所だと思い知ること、自衛することが求められる。街の中にいるのと同じ感覚で森に入れば、落石のみならず倒木をとっさに回避できない。直撃を受けたら最悪の場合は死に至る、ということを頭の隅においておきたいものだ。

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