2008年7月11日金曜日

総合図書館長の憂鬱


まちづくり団体のサポーター「いわきフォーラム’90」のミニミニリレー講演会が先日(7月8日)、いわき市文化センター会議室で開かれた。回を重ねること292回で、小宅幸一いわき総合図書館長が「いわき市立図書館における平成20年度事業について」と題して話した。

食欲をそそられる題ではないが、総合図書館(いわき駅前再開発ビル「ラトブ」4、5階)の現状を知るにはいい機会である。久しぶりに例会場へ足を運んだ。

館長の話では、総合図書館の入館者は平日で約3,000人、土・日・祝日には4,000人超のときもある。貸し出し冊数は平均3,300冊で以前の2倍強になった。特にビデオ・DVD・CDといった視聴覚資料の閲覧・貸し出しが好評で、今まで図書館とは縁遠かった市民が足しげく通う呼び水になっている。これが入館者増の大きな要因の一つという。

地域ネットワーク化を推進したのも大きな特徴だ。地区図書館・公民館と総合図書館を結ぶ連絡車が毎日午前、午後の各1回運行している。最寄りの公民館へ出向いて読みたい本を申し込むと、それがあとで公民館へ届く。総合図書館オープンに合わせてスタートしたサービスである。図書館はこのシステムをもっとPRしていいのではないか。

悩みもある。4階の「子ども」コーナーには児童図書の書架のほか、遊具をそろえたプレイルームがある。これがざわつきの要因になっているため、遊具を取り除いて「母と子が向き合う空間」に組み替えた=写真。高校生のマナーの悪さにも苦慮している。

4階は北側が「子ども」コーナー、南側が「生活・文学」コーナーで利用者の出入りが多い。土・日曜日には雑踏状態になる。貸し出し業務について言えば、図書館のカウンターは列車(本)で旅する人々が交錯する駅の窓口に似ている。多少ざわつくのは当たり前だろう。私は、4階はそれでいいと思っている。

5階の「いわき資料」コーナーで調べ物をしているときには、確かにざわつかれては困る。が、幸いそんな目に遭ったことはない。水を打ったような静穏なイメージが保てるなら、それにこしたことはないが、くしゃみくらいは誰でもする。なにがなんでも静かにさせろというモンスター市民がなかにはいるらしいから、図書館長の憂鬱は尽きない。

当面の課題はレファレンス機能の充実だという。市民からの問い合わせに、図書館だけではこたえられない場合がある。その道、その分野に精通している市民がいるわけだから、その存在を把握し、了解をとって連絡網を構築しておけば、素早く市民の要望に対応できる。この人材バンクは市民の知的体力を上げるうえで大きな財産になろう。

6月に総合図書館が特別整理期間に入り、2週間近く休館した。すると「売り上げがダウンした」という「ラトブ」の商業者の話が館長の耳に入った。裏を返せば、文化・教育施設である総合図書館が「ラトブ」の経済にも寄与していることになる。文化がカネを生む時代がきたのだ。

各地から「ラトブ」の視察が相次いでいるのは、経済で疲弊した駅前地区(中心市街地)を再生するには、経済では無理、文化で――という思いが列島に充満しているからではないか。「一周遅れ」から「トップランナー」に躍り出たいわき総合図書館には、地元のみならず全国の期待がかかっている。

図書館内部のシステムを完全にするには2週間弱の特別整理期間では短い。が、「ラトブ」に同居する商業者の声も無視できない。総合図書館長は毎日、応用問題を突きつけられているような思いだろう。苦は楽の種だ。

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