ある日の夕方、「イキのいいのが入ったから」と、楢葉町の知人が小さなイカを持って来た。
知人はいつも自分でつくった料理を持参する。カミサンには願ってもない夕食のおかずだ。
今回は調理前の新鮮な食材が届いた。「ちょっと来て」。台所で下ごしらえをしていたカミサンから声がかかる。
なにか手伝えということだろうか。行くと、イカ本体のほかに細長くて白い骨のようなものが並べてあった=写真。
骨のようなものはイカの中から出てきたのだという。長さは8~9センチで、先端からほんの少し針のようなものが突き出ている。どこかで見たことがあるような形状だ。
イヤリング、あるいはピアス? 釣りをするときの浮き?(まさか、このイカの骨からヒントを得たわけではあるまい)
すぐ茶の間に戻り、「小型イカ」「細長い骨」などをキーワードに、ネットで検索する。と、「コウイカ」「甲は貝殻」といった言葉が現れた。
コウイカの「コウ」は「甲」、甲は貝殻の名残で、「浮き」の役割を果たしている、という。
魚介類なら「市場魚貝類図鑑」だ。それによると、イカはもともと貝だった。貝殻を付けたままでは速く泳げない。それで貝殻を捨てることにした。貝殻の名残の甲を持っているのは、コウイカ、シリヤケイカ、カミナリイカなど、だとか。
コウイカだとすると、成体は20センチ前後になる。ちょうだいしたのはずっと小さい。ネットに出てくる「ピンポン玉」の大きさに近い。
春に生まれた「新イカ」は、夏には5センチ前後になるという。どうやらこの「新イカ」らしい。
「市場魚貝類図鑑」で再確認する。関東では、生まれて間もない「新イカ」を非常に珍重する。高値がつくので、スーパーなどには置いてないことがあるそうだ。
煮つけになって出てきた。やわらかくて歯ごたえがある。ほのかな甘みと旨みが口内に広がる。
ほかにも、いろいろネットをサーフィンしてわかったことがある。コウイカの甲の形状についてぴったりの表現があった。サーフボードに似る。なるほど、手のひらに入るサーフボードのミニチュア版だ。
貝殻の甲の連想でいえば、頭足類のアンモナイトとイカは共通の祖先をもち、オームガイはこの頭足類の最古の祖先と考えられているのだとか。
野鳥は卵を産むために、貝殻を背負ったカタツムリを捕食する。そのことを知って以来、自然界では炭酸カルシウムが循環する、という考えが頭から離れなくなった。
コウイカの甲の炭酸カルシウムも循環する。インコなどの副食として利用されるという。うまく回っているものだ。