毎日2千歩前後は歩くと決めてからは、いわき駅前再開発ビル「ラトブ」の総合図書館へ行く、スーパーのマルトへ行くというとき、「ラトブ散歩」「マルト散歩」を意識するようになった。
それまでは目当ての本や品物には一直線に向かい、手にしたらすぐ貸出機やレジに直行する。ほかは見向きもしなかった。
しかし、一直線だけが時間の使い方ではない。図書館にはおびただしい本がある。マルトにもたくさんの商品がある。
世代や男女、仕事や趣味、その他もろもろの需要にこたえるための本が、商品が用意されている。
頭ではわかっていても余計な時間はかけたくない、いつもそんな意識がはたらいていた。
散歩しているのだと思えばいい。最近はそんなふうに意識を切り替えて書架をながめ、商品棚をチェックする。
一直線のときにはこんなこともあった。マルトでは私がカートを動かす。レジの列に並ぶと、なぜかカミサンがいなくなる。
どこへ行ったのかな――。いぶかっているうちに、レジの順番がくる。こちらは財布を持っていない。どうするんだ。内心焦っているところへカミサンが戻って来る。突然買うものを思い出すのだそうだ。
一直線から散歩感覚に切り替えたのには、これもあった。入館・入店したときから健康を意識してフロアをあちこち移動する。
ラトブでは図書館だけでなく、階下の書店やショップもぶらつくことが増えた。買うかどうかはともかく、なにがあるのかを「ラトブ散歩」で確かめる。
ほかの大型店へ行ったときにも散歩感覚で店内を巡る。それで100円ショップでは「数独」の練習帳を売っているのを「発見」した。
図書館の話に戻る。ラトブの総合図書館は、4階が子どもと生活・文学フロア、5階がいわき資料と歴史・科学フロアだ。
これまでは一直線のほかはカウンター前の新着図書コーナーをのぞくだけだった。最近は5階も4階も巡り歩く。
そうした「ラトブ散歩」で自然科学系の書架から見つけたのが、キース・サイファート/熊谷玲美訳『菌類の隠れた王国――森・家・人体に広がるミクロのネットワーク』(白揚社、2024年)だ=写真。
現代の地質年代を「人新世」と呼ぶ言い方がある。しかし、「私たちの住む世界は菌類の世界である。(略)人類の影響がどれだけ大きくても、菌類の影響にはとてもかなわない」(序文=ロブ・ダン)。
で、現在は「『菌類世』とも呼ぶべき大きな時代の、風変わりな一時期」なのだとか。「菌類世」? ロブ・ダンはそういう視点で本書を読むことを勧めている。
本書は、菌糸体の特質を応用した新素材・新製品、菌類の代謝産物から生まれる新薬・石油化学製品の代替製品、プラスチック分解……。マイコテクノロジー(菌工学)の可能性にも言及する。
散歩は夏井川の堤防であれ、図書館であれ、予期せぬ出会いを秘めている。そこがおもしろい。