岩波書店のPR誌「図書」3月号は、巻頭で小特集を組んだ。「環境を読む、私たちを知る」を通しタイトルに、解剖学者の養老孟司さんら5人が寄稿している。
小林彩さん(生態学)は「スズメからの問いかけ」=写真=と題して、スズメが減っていることを報告した。
スズメは、もともとは木のうろなどに営巣していたのだろうが、至る所に人間が住み始めた結果、家の軒下や瓦屋根のすき間などをすみかにして生き残る戦略をとってきた(と私は考える)。
ときに稲作の害鳥扱いを受けながらも、人間の暮らしを利用し、人間とつかず離れずの関係を保ちながら、子孫を増やしてきた。その意味では最も人間と関係の深い野鳥にはちがいない。
通りの家の軒下に巣をつくる夏鳥のツバメも、ごみ集積所を荒らすカラスも「翼を持った隣人」だ。そのなかで人間に身近なスズメが減っている? なぜ?
小林さんが島根に住んでいたころ、地元の古老から、スズメが減った話を聞いた。日本自然保護協会の事務局に務めて、そのことを思い出す。
同協会は毎年、調査報告書を発行し、5年に1回は「とりまとめ報告書」を出す。2024年10月に最新版のデータが公開された。そのなかで、里山でスズメが減っていることが明らかになった。
その要因の一つとして、小林さんは人間の「自然に対する働きかけの減少」を挙げる。
農山村では、人間が自然を利用しながら、自然を守ってきた。周囲の森や川、田畑を含めた農山村景観はそれで維持されてきた。
この里山環境に大きく依存してきた生きものは数多い。ところが昨今は、多くの中山間地で田畑の耕作放棄が進み、草地や周辺林は管理する人がおらずに放置されている、という。
その結果、農地や草地の森林化が進み、放置された森林も構成する植物の種類が変わってきた。
「人間が手を入れることによって保たれていた、明るい環境に生息する生きものたちの減少」が起きた。人間の側が里の自然から遠ざかることで、里の自然が荒廃したのだ。
哲学者内山節さんは『自然と人間の哲学』のなかで、自然と人間の関係を、自然と自然、自然と人間、人間と人間の3つの交通が影響し合ったものとして論じている。
スズメの減少は、つまりはこの自然と人間の交通の変質がもたらしたものだ。小林論考を読んで納得した理由が実はここにある。
東日本大震災に伴う原発事故で、双葉郡を中心に多くの人が避難を余儀なくされた。人間のいなくなった里からカラスやスズメも消えたのではないか――。あのとき、そんな心配がよぎったのだった。
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