2026年3月5日木曜日

「死物学」が身近に

        
 「生物学」に対抗して、というわけではないだろう。交通事故で死ぬ生き物が増えている。事故死した動物を解剖していろんな知見を得る。それを「死物学」というそうだ。

川口敏著『死物学の観察ノート』(PHP新書)を読んで以来、路上に横たわっている動物を見ると、いつもこの言葉を思い出す。

とはいっても、私は研究者ではない。死物から生物だったときの時間を思い、彼らが生きていた環境などを想像するだけだ。

 まずは生物。夏井川渓谷の隠居へは野鳥がよく来る。しかしそれ以外の動物、たとえば集落の畑の作物を荒らすイノシシには、まだ出合ったことがない。

 タヌキは日中、対岸の森から発電所のつり橋を渡って来るのを目撃した。その森の斜面で、ハクビシンらしい動物の後ろ姿を見た。隠居の裏の森では、リスが目の前を横断していった。

 黒い碁石のようなイノシシの糞、黒豆のような野ウサギの糞、タヌキのため糞も見ている。

 これらの目撃情報や物的証拠から、渓谷は植物や菌類だけでなく、動物も多様性に富んでいることがわかる。

そして、ここからは死物の話。平のまち場にあるわが家から渓谷の隠居までは車でざっと30分。途中まで国道399号を利用し、その先は県道小野四倉線を駆け上がる。

 交通量は少ない。が、路上ではよく動物が死んでいる。30年も行き来していると、路上に横たわっている動物のリストはかなりのものになる。

 まち場で多いのは猫で、市街はもちろん、そこからちょっと離れた集落でもたまに見かける。

 郊外ではタヌキを中心に、野生動物が目立つようになる。フクロウ、イタチ、ヤマドリ、ノウサギ……。

渓谷ではないが、いわきから双葉郡へと続く山麓線では、楢葉町下小塙地内の坂道で側溝にひっくり返って死んでいるイノシシを見た。

生きたイノシシもいた。原発事故のあと、日中の立ち入りが自由になった山麓線沿いの富岡町を訪れたときには、白昼、その親子を目撃した。

サクラ並木で知られる富岡二中前の交差点に立つと、東側の住宅街を貫く道路にイノシシの母子が現れた。その距離ざっと100メートル。

母イノシシが人間に気づいて足を止め、こちらをじっと見ている。やがて子イノシシがわき道にそれ、母イノシシも子どもを追って姿を消した。

 集落からは人の気配が消え、ここぞとばかりにイノシシが昼間からはいかいするエリアに変わっていた。

 そして最近、夏井川渓谷のど真ん中で見た死物は、最初、リスかイタチかと思ったが、どちらでもなさそうな、よくわからない小動物だった。

あれこれネットで調べ、冬毛のホンドテンらしいことがようやくわかった。頭は白っぽい。のどの周りは黄色で、足は黒い。胴から長い尾まで、明るい茶色だが、尾の先端は白くなっている。

 尾の先端の白=写真(尾だけアップした)=で特定できた。テンはテンでもキテン(黄色いテン)というらしい。渓谷では初めて見た。死物はやはり悲しい。

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